実家は美容院を営み、かつて彭さんも美容師になるつもりで美容学校に通った。しかし、働く親の姿を見て美容師として生活する厳しさを実感した。そして美容師よりも稼げるコンクリート工として働く道を選んだ。
「彭さんも、もともとはおしゃれで、ファッション好きの人なんですけれど、出稼ぎにいくときに髪の毛を短く刈ったんです。チャラチャラした生活を捨てて、気合を入れるぞ、という意思表示でした」
前のめりになってがむしゃらに働く彭さん。その姿が馬場さんの祖父の世代と重なった。
「なかなかデリケートな話なんですが、もう、昭和のおじさんみたいなんですよ。すべてが大げさで、俺はがんばる、みたいな。家のなかに序列がある家父長制で、男は家の大黒柱というと、時代遅れに感じるかもしれないですけれど、それが台湾ではふつうなんです」
馬場さんは以前、男尊女卑にも通じる家父長制に対して疑問を抱いていた。
「私の田舎は熊本なんですが、おじいちゃんは『九州男児』というか、本当に化石のような人なんです。おじいちゃんやお父さんは家のまん中の柱。そんな生き方に対して私は否定的に見ていた。でも、彭さんの姿を見ていると、こういう生き方を否定することはできないなあ、と思うようになりました」
■古くさいけど理解できる
日本の若い世代にはジェンダー平等の考えが浸透している。そのため、父親が「男として家族を守っている」とSNSで書くと「絶対に炎上しますね」と馬場さんは言う。
「いまの若い子はそういうことに本当に敏感です。だから彭さんのような生き方は批判されることが多いと思う。もう本当に古くさい考えみたいに思われるでしょう。でも多様性の一つとして、こういう生き方もあっていいと思う」
さらに馬場さんは、彭さんのような生き方は日本人にも理解できるのではないか、と言う。
作品には撮影者である馬場さんの存在はほとんど感じられない。それだけに理想の父親像と現実とのギャップに悩む彭さんの姿が自然に伝わってくる。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】馬場さおり写真展「その男、彭志維(ポン・ツー・ウェイ)」
ソニーイメージングギャラリー(東京・銀座) 8月26日~9月8日