Aはのちに検察官にこう自白した。「手紙の内容は自分で考え出し、他の販売員に毛筆で書いてもらったもの。P子さんを誘ったのは、グリーンヘルス社の顧客カードから選んだのです」。霊能者のお告げではなかったわけだ。
そうとは知らぬP子さんは83年7月28日朝、車で迎えに来たAに伴われて、脅迫の現場へ向かった。障害のある夫も同行した。連れ込まれたのは浅虫温泉のホテルの一室だった。P子さんに対する陰惨な脅しは、この一室でこの日午前10時半ごろから午後8時ごろまでの間、行われた。判決と、P子さんらの検察官調書から状況を再現する。
「皆殺しにするぞ」
主婦の連れ込まれた戦慄の密室
――和室の壁際に細長いテーブルが祭壇のように置かれ、壺が飾られていた。P子さん夫婦は壺から火の出る様子を映すビデオを見せられた。Aが30歳ぐらいの先生を請じ入れた。B子である。先生はP子さんの先祖の「罪」についてあれこれと説き始めた。途中で夫は外に出された。
2人きりになると、先生はいった。「あなたが堕した子供や病死した前夫が成仏できずに苦しんでいる」。ひるむP子さんにたたみかけた。「全財産を投げ出して成仏させないと不幸が続く」「正直にいいなさい」。何度も促され、P子さんは財産を打ち明けた。
夫の交通障害保険として1200万円が入った。それをそのまま銀行預金してある。ほかに少しずつためた郵便貯金。
聞き出した先生は、「全部出しなさい。そうすれば霊を成仏させてやる」といった。「霊が苦しんでいるのにお金を出さないのか」とどなったりもした。執拗な要求に、連れて来られる際の話と違うことに気づいたP子さんは帰ろうとした。
だが入り口には人が立っており、ドアを開けさせないようにしていた。仕方なく先生に「うちの人の事故で得たお金。自分では処分できない」と説明したが、先生はきつい口調でこういった。「霊がどういうふうになっているか見せてやる」。
先生は祭壇を拝み始めた。夫も連れてこられた。「おやじにも見せてやる」と、先生はP子さんに向かっていった。いつ入室したのか、1人の男がいて、どなり声をあげて暴れ始めた。「前夫の霊が乗り移った」と。この男がCである。