――丸山先生の作品から感じられる切実さの背景や、「少数派」からの社会への視点について、どうお考えでしょうか。
生活をしていると「理不尽だなあ」と、憤りを覚えることは皆さんもあると思います。大抵が、「困難な状況にあるのに周囲に理解されず、誰もそのことを知らないし知ろうとしない」という出来事だったりするので、それが「見えない存在を描く」ということに繋がっているのだと思います。「書く」ということはかなりのエネルギーが必要ですので、書くんだったら誰も書いていないことを書きたいと、常に思っています。
『デフ・ヴォイス』シリーズを書こうと思ったのは、障害者の存在が身近だったからです。妻が重度の障害を持っているので、三十年以上介護生活をしています。多くの障害者や、その周りの人たちと出会っているというのが、根底にありました。
聴覚障害者に関することですが、本人たちは聴覚障害者と言わずに「ろう者」と言います。そしてある文献で「日本手話という言語を持つ、ろう文化という独自の文化を持つ言語的少数者なのだ」ということを読んだ時、大きな衝撃を受けました。この衝撃を他の人にも知ってもらいたいと書いたのが『デフ・ヴォイス』です。「読書メーター」で話題になり、文庫化され、少し話題になりました。
そのおかげで2作目が出版でき、『デフ・ヴォイス』もシリーズになりました。その後、数多くのろう者や難聴・中途失聴者、手話通訳者、教育関係者などの知り合いができました。日々の交流の中で見聞きすること、それは「訴え」に近いのですが、そういうものを小説として書いています。
新しい作品の構想も練っていますが、まだ具体的に言える段階ではありません。ただ、自分としてはまた新たなチャレンジをしたいと思っています。ぜひ、新作長編小説『キッズ・アー・オールライト』をお楽しみください。
(文/朝日新聞出版 長谷川拓美)