『ワンダフル・ライフ』が2021年読書メーターOF THE YEARを受賞し、『デフ・ヴォイス』シリーズや『ウェルカム・ホーム!』で話題の丸山正樹先生の新刊が、本日、発売された。
ストリートに生きる日系ブラジル人の少年、追い詰められるヤングケアラーの少女。社会の「見えない存在」を鮮明に浮き彫りにする社会派小説は、どうやって生まれるのか……丸山正樹先生からのメッセージをお届けする。
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虐待・差別・体罰・貧困といった子供の人権救済活動に関わっているNPO法人の代表の河原はある日、SNS上で<このままだとあたし おばあちゃんころしちゃうかも>というヤングケアラーと思しき書き込みを見つける。河原は組織を手伝う少女・うさこを通じて発信元の子に連絡を取ろうと試みる。
繁華街で「パパ活」などを仕切る半グレ集団に睨みを利かせている男・通称シバリはある日、少年たちから襲われていた日系ブラジル人の少年・ダヴィを助ける。彼は日本生まれの日本育ちだが、周囲は彼を「ガイジン」と呼ぶ。日本の社会から排除された日系ブラジル人たちが群れ住む団地を訪れたシバリは、ダヴィを学校に行かせるために、グループの男と対決する。それぞれの人生が交わる時に、何が起こるのか……『キッズ・アー・オールライト』のあらすじだ。
――今回の小説には、ヤングケアラーや外国人の子供たちが登場します
ヤングケアラーが話題になる前から「子供の頃から親の代わりを担ったり、家族のケアをしたりする人」たちの複雑な心理について、思いを寄せていました。外国人の子供については、だいぶ以前から技能実習生や入管の問題、外国人の人権の問題に興味がありました。
そして私の中に「外国人の子供」については、今まであまり言及されていないのではないか、という思いがありました。具体的には、親が入管に収容されてしまったり、強制帰国させられてしまったりした子供のことです。
子供だけ日本に残されたり、逆に、日本生まれなのに親と一緒に母国に帰国させられてしまったりしている。日本語しかしゃべれないし、日本文化で育っているため「母国」とは言ってもまったく「自分の国」ではない……そういう子供たちの問題はあまり話題にされていないのでは、と。
今回、『小説トリッパー』から原稿の依頼を受けた時、この2つの問題を書きたいと思いました。前に出版した小説で「子供の家」というNPOを描いたことがあります。「居所不明児童」という、親の勝手で連れまわされて行方が分からなくなってしまう子供を探すという話なのですが、その過程で出てくるのが子供の家です。
主に虐待や貧困など、子供の人権に関する問題全般を扱う子供の家なので、2つの問題を同時に扱うのはどうだろうか、と。そして、NPOを主催する大人だけでなく、ストリートチルドレンの元締めみたいな若者(シバリ)や援助交際をしていた女の子(うさこ)たちを主役に、ヤングケアラーである子供や外国人の子供と関わらせるという描き方をすれば、きっと彼らの痛みが分かるはずだ、と思ったんです。
「大人の目線」ではなく、子供と同じような「低い目線」から、ヤングケアラーや外国人の子供と関わるのはどうか、と考えたのが始まりです。