今はその感情を大切にするだけでいいんじゃないかと僕は思います。つまりは、今の生活を続けることをお勧めします。
ちょっと話はそれるんですが、聞いて下さい。
僕は演劇系の大学で教えています。この前、19歳の女子学生が真剣な顔で相談に来ました。彼女は「友達が法律違反をしているんですが、どんなに楽しそうでも絶対にやめさせるべきですよね?」と言いました。
僕は少し驚いて「法律違反? ドラッグとかか? だったら、やめさせないとな」と返しました。
すると、その女子学生は、「違います。不倫です」と真面目な顔で答えました。
「不倫は法律違反じゃないよ」。僕は驚いて答えました。
彼女は真剣な表情で「だって、訴えられるんでしょう。法律違反じゃないですか」と反論しました。
僕は内心、大人達が「文春砲」に俗情を刺激され、スキャンダルに舌なめずりしている間に、若い奴らの感性はここまで来たのかとため息をつきました。
演劇系の大学の学生ですからね。大胆に言えば、ドラマの半分ぐらいは不倫とか三角関係とか肉欲なんかが絡んでいると思いますね。
やがて、「『アンナ・カレーニナ』は不倫の物語ですから、上演に値しない最低の作品です」なんて言う学生が出てくるんじゃないかと本気で怯えます。
僕がつんさんに「不倫の恋でもいいじゃないですか」と言うと、「不倫は絶対ダメ。人間として最低」と思っている人から、激しい攻撃を受ける可能性が高いです。とくにネットでこの文章を読むと「鴻上はとんでもない。最低の奴だ」と炎上するかもしれません。
でも、「不倫はどんな場合でもダメ」と完璧な正義のルールを主張する人は、不倫する人の気持ちをあまり分かってないんじゃないかと僕は思っています。
「さあ、不倫するぞ」と思って不倫する人はめったにいないと僕は思っています。そうではなくて、つんさんが書くように、人生で「不倫なんてハードルの高いことが起こるなんて思ってもみませんでした」という人がほとんどだと思います。
僕は何人も「まさか自分がこんな恋をするなんて、想像もできなかった」とつぶやく人達を見てきました。みんな真面目に人生を生きていると思われていた人達です。
「自分は自分の予想もつかないことをするんだ」と驚くからこそ、二千年以上も人間は物語を作って、演劇や小説や物語にしてきたわけです。