支援事業の多くが滞っているという。この現状は、キャンプ内の治安の悪化を招く。窃盗事件が頻繁に起き、ドラッグもはびこりはじめている。NGOのスタッフもできるだけキャンプ内に留まらないよう指示が出ている。
キャンプ内の様子を見てみたかった。許可は出たが、クトゥパロンキャンプに入る当日の朝、難民救済・帰還委員会事務局から連絡が入った。「前日、待遇改善を要求する集会がキャンプ内であり、その後、警察や軍と衝突。今日は難民キャンプに入ることはできない」という内容だった。
キャンプの近くまで行ってみることにした。周辺にはキャンプ内で販売する食料品、衣類などを扱う問屋が集まっている。その数約100軒。野菜を売るIさん(45)はこういった。
「景気がよかった時代はもう終わり。店を閉めようかと思っている」
前出のNGO団体で働くKさんは、降りつづく重い雨を眺めながら不安げに語った。
「ミャンマー内に店や土地があるロヒンギャは続々帰っています。ミャンマーは危ないけど、キャンプ内よりはいいってことです。たぶんいま、キャンプにいる難民はいちばん多かった時期の6割ぐらいに減っている気がする。バングラデシュ政府は100万人といっています。数が減ると援助が減ってしまいますから。キャンプに残るのは、ミャンマーに資産がなにもない本当に貧しい難民。キャンプは今後、もっと悲惨な状態になっていく気がします」
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ) 1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。