時速50キロで走る、嗅覚は人間の10万倍、1.5メートル以上跳ぶ……。ねこの調査研究を行っている動物学者・山根明弘氏が、優れた身体能力や感覚器の鋭さから人間の治癒力まで、ねこの“すごい”生態を解明した一冊『ねこはすごい』(朝日文庫)から、江戸時代にもあった「大ねこブーム」について一部抜粋・再編してお届けする。
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■ねこブームは、昔からあった!
現在は空前のねこブームともいわれています。テレビをつければ、たくさんのCMにねこが出演し、ねこをテーマにしたテレビ番組が毎週のように放映されています。書店に行ってみると、毎月のように新刊のねこ写真集やねこ本が発行され、「ねこコーナー」に平積みにされています。
少し前までは、大都市にしかなかったねこカフェも、最近では地方都市でも普通に見かけるようになりました。また、各地のデパートでは、写真家の岩合光昭さんの作品をはじめとする、ねこの写真展が女性客を中心に大変なにぎわいをみせています。ここ数年は、美術館や博物館の業界でも、ねこの絵画や浮世絵を中心に展示するいわゆる「ねこ展」が各地で企画され、どこでも大ヒットし、これまでの入館者数記録を更新する館もあるほどです。
■江戸時代にも現在のような「ねこブーム」があった?
個人的にも、ねこブームの到来を感じることがあります。それは、わたしのノラねこの研究に対する、一般の方々からの反応の変化です。20年ほど前は、ノラねこを研究しているなどと人前で話そうものなら、変人扱いをされたものでした。よほどねこが好きな変わり者か、ヒマを持て余した気楽な大学院生とでも思われていたようでした。なかには、「そんなことをして、何か人の役にでも立つの?」と少し皮肉っぽくいう人もいました。
ノラねこは、シカやクマ、キツネといった野生動物ではありませんし、かといって牛や豚、羊などの典型的な家畜とも少し違います。どちらにも属さない、中途半端な動物と思われてしまえばそれまでで、ノラねこの研究が一般の人から受け入れられなくても、それは仕方がないことと諦めておりました。
しかし、この10年ほどの間に、少しずつ潮の流れが変わってきたように思います。わたしのノラねこの研究内容や、その成果について、新聞社やテレビ局、出版社などからの問い合わせが次第に増えてきました。また、ノラねこを研究することに対しても、「あら、楽しそう!」とか「わたしもやってみたい!」などと、反応も随分と好意的なものへと変わってきています。これも、最近のねこブームのおかげなのでしょう。