江戸時代の歌舞伎役者のファンの間で、ねこ顔にした役者の団扇が出回っていたところに、現在の「ねこブーム」とはとても比べることができない当時の熱狂ぶりを、わたしたちは垣間みることができます。
■ねこの着せ替え人形
幕末から明治の初めにかけても、このねこブームは続きます。この時代になると、子供向けの「玩具絵(おもちゃえ)」といった、双六や、切り抜いて遊ぶメンコやカルタ、紙模型、それに着せ替えというものもありました。いまのようにゲームなどない時代、子供たちは手先と想像力を最大限に使って、工夫しながら楽しく遊んでいました。その玩具絵のなかには、ねこを擬人化したものも多く見られます。なかでも、ねこの全身姿とさまざまな衣装を切り抜いて遊ぶ着せ替えは、現代のわたしたちには「なぜ、人の人形ではなく、ねこなんだろう?」とも思えます。
当時の人々にとって、ねこの着せ替えは、全く違和感がなかったのかもしれません。それほど、ねこは当時の人々にとって、身近で特別に愛すべき動物だったのでしょう。幕末前後の空前のねこブームによって、ねこは日本の文化のなかにさらに深く刻み込まれ、現在に至っているものと思われます。海外からの旅行者が、日本のねこ文化に惹かれるのは、これが単なる一過性のブームなどではなく、時間をかけて熟成された本物の文化であることを、鋭く見抜いているからなのだと思います。わたしたちは誇るべきこの日本のねこ文化を、もっと自信をもって海外に向けて発信してもいいのかもしれません。