地方の医療格差は大きな問題です。あなたは医師になって、どんな風に働きたいですか? ※写真はイメージです (c)GettyImages 
地方の医療格差は大きな問題です。あなたは医師になって、どんな風に働きたいですか? ※写真はイメージです (c)GettyImages 
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 医学部受験で、「地域枠」の選抜入試が本格的に始まって14 年余が経ちました。この制度で入学した医学部生は卒業後、どのようにキャリアを積み、将来をどのように考えているのでしょうか。医師になって6年目の、栃木県の地域枠出身医師2人に、本音を聞きました。好評発売中の週刊朝日ムック『医学部に入る2023』から抜粋してお届けします。

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 地域枠は卒業後、一般的には9年間、所定の地域や診療科に従事することを、入学や修学資金貸与等の条件とする制度だ。条件を満たすと修学資金の返還が免除される。定員数は年々増加し、現在は約6人に1人が地域枠だ。 

■条件や制度を調べ、納得してから受験を

 多くの場合、奨学金は都道府県から貸与され、条件はそれぞれ異なる。離脱事例もあるので、事前に確認、納得してから受験したい。

 栃木県の現在の地域枠は自治医科大学3人、獨協医科大学10人。診療科目は県と相談して選択する。臨床研修(2年間)は大学病院、専門研修プログラムの履修(3年間)は県内の基幹病院と連携病院で、その後はへき地診療所を含む公的医療機関で、2年ごとのローテーションを基本として働くことになる。

 ここからは、栃木県の地域枠で医師になって6年目の、2人の現役医師の経験談と現在、そして将来の展望を紹介する。ひとりは地域の中核病院に勤務中、もうひとりは高齢化が著しいへき地の診療所に従事している。

【インタビュー1】小野翔也医師(群馬県出身 獨協医科大学卒 足利赤十字病院 循環器内科部門)

「ここまであっという間だった」と小野医師。「残りの義務年限、育ててくれた栃木の先生方に恩返しをしたい」 写真/高橋奈緒(写真映像部)
「ここまであっという間だった」と小野医師。「残りの義務年限、育ててくれた栃木の先生方に恩返しをしたい」 写真/高橋奈緒(写真映像部)

 小野翔也医師が受験したのは、地域枠が始まってから4年目。制度がまだあまり知られていない時期だった。一般入試の当日、一般枠とともに栃木県地域枠が併願できると知り、受験票にチェックを入れたという(現在は出願時に同意書を提出する必要がある)。

「正直なところ、少しでも合格のチャンスが増えればという気持ちでした。もちろん、1次試験後に条件などをしっかり確認して、『これなら自分のやりたい方向だ』と、迷わず2次試験に臨みました。父は現在、千葉県で内科の診療所を開業しており、いずれは後を継ぐ予定。地域枠での経験は、将来にも大いに役立つと思ったのです」

小野医師の勤める足利赤十字病院。病床数540、中核病院として地域の医療を支えている 写真/高橋奈緒(写真映像部)
小野医師の勤める足利赤十字病院。病床数540、中核病院として地域の医療を支えている 写真/高橋奈緒(写真映像部)

 医学部卒業後の初期研修(2年間)は獨協医科大学病院で受けた。3~5年目は県のキャリア形成プログラムを踏まえて、複数の選択肢の中から学びたい診療科や働きたい医療機関の希望を出すことができた。小野医師は希望がかなって、日光市の獨協医科大学日光医療センター循環器内科に派遣された。

「地方といっても、最新の医療設備が備わっている中核病院です。ただし、医師の数は少ない。その分、1年目からカテーテル検査や治療、重症の心臓病患者さんの管理も任せてもらえました。大学病院に送っていては間に合わない病状の患者さんもいますから、必死でした。先輩医師たちからは『早く一人前になってほしい』と手厚く指導をしてもらい、本当に感謝しています」

 2年の勤務後、宇都宮市のNHO栃木医療センターを経て、今年4月から現在の病院に。「地域に貢献している実感を持ちながら、やりたいことができる環境に満足しています」

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へき地の診療所に勤務中の医師の思いとは