これに関していえば、入水技術の高い選手は、入水する直前に身体がくの字に曲がっていたとしても、水しぶきを上げないで入水することができる。ただ、これは演技としては“美しくない”ため、減点されてしまう。たまに、入水はすごくきれいなのに得点が伸びないな、と感じるときがあるが、それはまさに上記の3つのいずれかで減点されてしまうことが多い。

 そこを見ると、FINA世界選手権で入賞した三上の演技は、空中姿勢がとてもきれいだ。つま先や入水直前の姿勢も真っすぐで、もちろん水しぶきも少ない。そのため、三上は平均してジャッジが7~8点を出すことが多い。

 だが馬淵は入水が決まっても6~6.5が非常に多く、技が決まったときでも7点台に留まってしまっている。それは入水技術ではなく、空中の演技姿勢で減点されてしまっていることを示している。

 飛込競技の採点は、ジャッジが10点満点で評価する。そして、実はその採点には6段階あるのだ。

『完璧な演技』には10点。『非常に良好な演技』には8.5~9.5点。『良好な演技』には7.0~8.0点が、『完成した演技』には5.0~6.5点が与えられる。さらに下は『未完成な演技』、『失敗した演技』、『全く失敗した演技』と続く。そして、この段階をひとつ超えることは、非常に困難なのである。つまり、8.0点と8.5点の差は0.5点しかないのだが、この0.5点の壁は非常に大きく、ここが世界と戦えるかどうかの判断基準と言っても過言ではない。

 これを説明すると、三上と馬淵の違いが明確になる。三上はすべての演技において、『非常に良好な演技』、もしくは『良好な演技』をしているとジャッジから判断されている。対する馬淵は、空中も入水もすべて決まったとしても『良好な演技』という評価しか受けられておらず、平均としては『完成された演技』という評価になってしまっている。

 世界を見ると、上位の選手たちは平均して『非常に良好な演技』の幅のなかで勝負しており、1本でも『良好な演技』の枠組みに入ってしまうだけで順位が大きく下がってしまうのである。

 現在、日本国内に三上という国際大会でもメダル争いをする選手がいる以上、演技の完成度をさらに上げる必要があるのは、点数からも明確である。馬淵はそれをしっかりと理解しているからこそ、最初の発言につながる。つまり、1本ごとのクオリティを上げなければ勝負できないのである。

次のページ
馬淵に“可能性”を感じるワケ