もうひとつの課題は、難易度だ。世界では難易度の平均は3.0あたり。だが、馬淵は2本、難易度が3.0を下回る演技がある。

 難易度が3.0あると、8点の演技をすると72点獲れる。馬淵が飛ぶいちばん低い難易度の種目(105B・前宙返り2回半エビ型)の2.4だと、8点を出しても57.6点しかもらえない。馬淵は単純に、三上と同じクオリティの演技をしたとしても、合計で40点近く離されてしまう状況なのである。

 馬淵が世界を狙うのであれば、この難易度が3.0以下の種目(105Bと405C:後ろ踏み切り前宙返り2回半抱え型)に関して、回転数をひとつ多くするか、エビ型にするかの選択をして、難易度を上げる必要があるのだ。

 冷静に分析すると、馬淵の立ち位置としては、現状は日本代表に入るのは非常に厳しい状態にあると言わざるを得ない。しかし、数字だけではない部分で、馬淵への期待がふくらむ点がある。

 実は、馬淵は引退する前と変わらない種目を飛んでいるのだ。難易度が下がってしまっているのは、引退後のルール改正によって馬淵が飛んでいた種目の難易度が下げられてしまったものによる。そのため、全体の点数が下がってしまってはいるが、復帰してたった1年足らずの間に、引退する前と同じ種目を、同じクオリティで飛んでいるのである。これは特筆すべき点である。

 本格的にトレーニングを始めてたった数カ月でここまでのクオリティに持ってきた馬淵の努力は、筆舌に尽くしがたいものがある。どれだけ苦しいトレーニングを積んできたのか。それは結果が示している。そう考えれば、今後を見据えると馬淵には、新しい可能性という大きな伸びしろがたくさん残っているのだ。

 馬淵が復帰後、笑顔でワクワクした様子で話していた言葉がある。きっと、馬淵は来年、そして再来年も成長し続けることだろう。そう思わせてくれる、力強い言葉だった。

「以前は早く辞めたいと思っていました。でも今は飛込が楽しい。イヤイヤやってた時代であれだけの結果を残せたのだから、楽しくできている今だったら、もっとできるんじゃないかと思うんです」

 新生・馬淵優佳の挑戦は、まだまだ序章にすぎないのである。(文・田坂友暁)