マンション建て替えの「ビフォー」「アフター」のイメージ図(作成=桜蔭学園)
マンション建て替えの「ビフォー」「アフター」のイメージ図(作成=桜蔭学園)

 目線防止策として、ブラインドを閉じるという手もあるが、実際に閉じてみると教室は一気に暗くなる。窓の外を見ることができない教室を、居心地よく感じる生徒がいるだろうか。

「管理組合側はプライバシーへの対策を施したと主張しますが、悪意を持った人が盗撮やのぞきをしようと思ったら、できてしまうのではないか。そのリスクを懸念しているのです。生徒だけではなく、学校に子どもを預ける親にも不安を生じさせます」(齊藤理事長)

 いま在籍している生徒は、マンション完成時には卒業している。だが、「圧迫感があって絶対にいや」「気持ちが落ち込むと思う」と未来の後輩たちを気遣ったり、「ここに通いたいと思う人が減ってしまう」と、学園を心配する声が出ているという。

 桜蔭学園は、地域住民やマンションと隣接する神社と協力し計画見直しを求めている。

 金運のパワースポットとしても知られる、この神社の広報担当者もこう憤る。

「マンションができれば、神社に日が当たらない時間がとても多くなります。暗い神社に参拝に来たいと思う人がいると思いますか? 境内には小さな鎮守の森がありますが、日当たりがないと木が枯れてしまうかもしれません。公開空地の広場は地域のためになる、などと言いながら、神社の森にはダメージを与える。こんな矛盾した話があるでしょうか」

 マンションの管理組合側は取材は受けないとし、「桜蔭学園様だけではなく地域の方とも、話し合いは続けていきたい」とだけコメントした。

 終始、苦渋の表情だった齊藤理事長は、最後にこう言葉を絞り出した。

「計画通りのマンションができてしまったとして、失われた環境をどう改善すればよいのか。生徒のプライバシーを守るためにどのような努力をすればいいのか、現状では想像もできません。少しでも建物を小さく、校舎との距離を開けていただきたい。それが私たちの切なるお願いです」

 取材中、休み時間に入ると女子生徒たちのにぎやかな話し声が廊下に響いた。学校の中の様子や、そこからの風景がタワーマンションによってどう変わってしまうのか。建てる側にとっては、“直視したくないこと”なのかもしれない。(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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