テーマは「外国人が見る日本」。姫路育ちのブラスには似合わない題材だった。ブラスはわざわざ外国人留学生の寮に行ってインタビューし、ブラス自身の言葉で紡いでいった。

「この顔やったから、わりと率直に、仲間意識という感じで語ってくれたのかも」

 コラムは人気を博し、発信する喜びを再び見いだすようになると、タレント活動を始めた。胸にロシア国旗のバッジをつけ、各国出身のタレントと十把ひとからげに出演。「これをやりたかったのか」と自問していたころに、転機は訪れる。TOKYO MXの情報バラエティー「5時に夢中!」出演が実現した。当時、同番組で演出を務めていた制作局制作一部副部長の山根祐樹(39)は、当時の印象が鮮烈だったという。

「毒舌ではなく、世の中を見て感じたことを、自分の言葉にできる人。話していて気持ち良かった」

 ロシア、関西人、性的少数者。そんな括(くく)りではない。「『すげえ人間だな』って一目でわかる存在」(山根)

 ブラスの存在が、スタジオトークの新たな要となる、番組としての新境地を感じたと山根は語る。

「毒っぽいことを言っても配慮があり、腹を割ってしゃべっていることも伝わる。平凡な話で終わろうとしたら、あえて自分から突っ込んで場をかき乱す。バランサーでありフォワード。本気の球を投げてくれる」

 MXのレギュラー出演決定と、ちょうど同じころ、フジテレビ「アウト×デラックス」にも初出演した。マツコ・デラックスと矢部浩之がMCを務める同番組は、「アウトとグッドは紙一重である」というコンセプトのもと、独特の世界観を持つ人々が呼ばれる。

 好きなタレントを聞かれ、ブラスは男性俳優の名前をさらっと述べた。共演者は一様に「あ、そっち?」。ブラスは振り返る。

「一応こだわりです。いちいちカミングアウトせずに、当然のように言いたかった」

 てっきり勘違いしていた、マジョリティーだと決めつけてごめん。その程度のコミュニケーションができればそれでいい。それがいい。それがブラスの考えだ。のちに、自著にこう記している。

「自分がゲイだということは自分を構成するごく一部なのに、自分のすべてをゲイだと思われることも面倒だ。カミングアウトしたら、まるでゲイの代表となり、ゲイとしてあるべき道を進まなければならないような気にもなる。不快な思いや余計なことを考えるのが嫌だから、あえて自分がゲイということを言わず、嘘を重ねて生きてきた」

(文中敬称略)

(文・加賀直樹)

※記事の続きはAERA 2023年3月6日号でご覧いただけます

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