撮影:林朋彦
撮影:林朋彦

 しかし、すんなりと撮影できるわけではまったくない。

「断られることは、もうしょっちゅうですよ。撮らせてくれる人は『ああ、いいよ』って感じですけれど、『ダメ』って言う人は、何を言おうがダメですね」

 不思議なことに、断られるときは重なるという。

「あまりにも断られるので、『なんで断るんですか』って聞いたこともあるんですが、『別に意図はないよ』と。そりゃそうですよね。勝手に店にやってきて、撮らせてくれって言われても困っちゃう。でも、こっちは落ち込んじゃって。それで東京に帰ったりしました」

■犬の散歩から東海道の旅

 理容店の撮影を始めたのは2012年。

「最近、気がついたんですよ。もう10年たったんだ、と」

 当時、林さんは東京都心を流れる神田川を下流から上流まで歩くなど、川シリーズを撮影していた。

「ところが、川は絵的につまらなくて、何か面白そうな被写体はないかな、と思った。それで、東海道を旅したことを思い出して、写真を見返したら、結構、レトロな床屋さんを撮っていた。それは外観だけだったんだけど、店内も撮ったら面白いんじゃないかなと思った」

撮影:林朋彦
撮影:林朋彦

 初めて東海道を旅したのは50歳を迎える前。きっかけは犬の散歩だった。埼玉県朝霞市に住む林さんは近所の黒目川沿いを犬と一緒に歩くのを日課としていた。

「最初は10分、15分だったんですけれど、だんだん遠くまで行くようになると、何か新しい世界が見えてきた。面白いな、と思った。たまたま本屋に行ったら、東海道の地図を見つけた。江戸時代の道が現在の道路と重ねて描かれていて、すごいな、と思った」

 どこまで行けるのかわからないが、東海道を歩いてみようと思い、東京・日本橋から歩き始めた。ところが、「地図を持たずに行ったら、品川に着かなかったんですよ」。品川までは7キロたらずの距離である。

 日を改めて再挑戦すると、「今度はちゃんと日本橋から川崎(神奈川県)まで行けた」。その後、区間を決めて何度も東海道に通い、京都にたどり着いた。

「その後、伊豆に家族旅行に行った際、帰りに古めかしい床屋を見つけたんです。『ちょっと見せてください』とお邪魔したら、中もよくて、写真を撮らせてもらった。これは面白いと思った」

■人が写っていない理由

 再び東海道を歩いて、理容店を撮影したいと思った。でも、また同じ場所に出かけるには家族を納得させる理由が必要だと感じた。ちょうどそのころ欲しかったクラシックな外観のデジタルカメラ、富士フイルムX-Pro1を購入。一緒に旅してみたいカメラを手に入れた――そう、理由を家族に告げ、東海道の理容店を撮る旅が始まった。

<日本橋から始まり、割りと順調に撮影が進みつつ神奈川を過ぎると、やがて延々と続く静岡の道。誰に頼まれたわけでもなし、もちろん仕事でもない。(中略)もちろん撮影自体つまらぬことはまるでないのだが、撮り終わった挙句「なんだつまらぬ写真ばかりだね」と言われたらどうしようかと一人勝手にムカムカしながら歩いていたものだ>(『東海道中床屋ぞめき』)

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