設置場所は、現在3医院がある東京都江東区内を予定している。赤ちゃんポストや内密出産によって受け入れた子どもは、健康上のケアを行ったあとに、乳児院や児童相談所に引き渡し、特別養子縁組の里親を探す。行政との連携が不可欠となるため、現在、賛同してくれる区議らと話し合っている段階だという。

■慈恵病院を視察 葛藤の日々に向き合う覚悟

 モルゲンロート職員の山村嘉奈栄さん(45)は10月末、区議らと数十人で、赤ちゃんポストの「こうのとりのゆりかご」を15年前から運営する慈恵病院本市)を視察した。

 子どもの安全の確保や相談機能の強化、公的相談機関との連携など、設置するまでに整えておかなければならない運用面での課題などを確認できたという。

慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」の窓口を視察するモルゲンロートの職員ら
慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」の窓口を視察するモルゲンロートの職員ら

「電話をかけてきた相談者には、誘導したと捉えられかねないので、安易に来院してと言えなかったり、警察が介入すると相談を躊躇する女性がいたりするので、相手の立場をよく考えながら寄り添う姿勢が大切だということを改めて知りました」(山村さん)

 そして、病院側からは、赤ちゃんポストに預ける母親の傾向として、知的障害や発達障害などにより生きづらさを抱えていたり、親からの虐待を経験していたりする女性が多い点を留意する必要がある、と伝えられたという。

 山村さんは、慈恵病院の蓮田健院長の「私は善人ではなく、やるしかないのでやっているだけ」という言葉が強く印象に残っているという。また、スタッフは穏やかで、赤ちゃんを受け入れる側に求められる心のゆとりも見えた。

慈恵病院の蓮田健院長(中央)から実情を聞くモルゲンロートの職員や東京の議員ら
慈恵病院の蓮田健院長(中央)から実情を聞くモルゲンロートの職員や東京の議員ら

 ■義務教育で性や妊娠・出産を学ぶ必要性

 東京は地理的にも各地からアクセスしやすい。

「そのため熊本よりも赤ちゃんを受け入れる件数とコストが、2~3倍になる可能性があります。その分、虐待死を減らすことにはつながると思います」

 小暮理事長はそう見込む。ただ、虐待死の件数を減らすという結果が出るのは5年先になるとの見方だ。

 さらに、赤ちゃんポストや内密出産は、虐待死への“対症療法”にすぎないと考えている。根本的な対策には、義務教育に性と妊娠・出産、子育てについて学ぶ機会を取り入れることが必要だと呼びかける。

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義務教育で性教育を学ぶことが必要