内木さんは、「当事者や家族にとっての『障害を知っている』ということと、健常者や、障害者が身近にいない方が思う『知っている』には大きなギャップがあるのだと思います」とし、そのギャップの根本には「生きづらさへの理解の有無」があると推測する。
事実、障害の中には、「目に見えない障害」と呼ばれるものも多くある。発達障害や、脳外傷などが原因で発する高次脳機能障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)などがそれに当たる。
一見して健常者との違いが分からず障害に気付いてもらえないため、何かが上手にできなかったり、失敗したりすると、「ふざけてる」「いいかげんな人」など、当事者の人格攻撃につながってしまうケースが少なくない。
「こういう精神障害者が、大人になったら犯罪者になるんだぞ」
「街に野放しにするな」
「だまらせてください」
「きもい」
東京都に住む古里亜矢子さん(41)は、息子と外出中にこんな言葉を投げつけられた経験を持つ。翔大君(10)は自閉症と重度知的障害がある。
例えば、駅で大好きな電車を見ているときに大きな声をあげたり、通院のため電車内で好きな本を読んでいるときに、「うー」とうなるような声をあげることがあるが、そんな時にだ。
古里さんは「障害を知ってくださっている方や、知ろうとしてくださる方に励まされたり、助けられたりしたこともたくさんあります。おかげさまで息子は10歳になりました」と感謝を口にする一方で、前述のような辛すぎる経験もしばしばあった。
「もし大声を出していても、何か事情がある子どもで、はしゃいでいるだけなのかなと思ってもらえたらうれしいです」と話しつつ、「でも、難しいんでしょうね」と複雑な胸の内を明かす。
同じく重度知的障害と肢体不自由の娘・陽葵さん(13)の母である愛知県の今井沙樹さん(37)。外出時は子ども用の車いすを利用することが多いが、困ってしまうことがたびたびある。
電車に乗る際は、駅員がホームと電車の乗車口にスロープをかけてくれるのだが、乗客が下りたあと、今度は乗る人たちが列車に次々に入っていってしまうため、乗る前に車いすが入れるスペースがなくなってしまうのだ。