総裁派閥の宏池会のメンバーは43人で、党内での勢力は5位にとどまる。国民の支持がなくなれば、政権基盤は危うくなりかねない。しかし21年に政権が発足して1年ほど高水準を維持していた内閣支持率は、参院選後から下降し始め、12月の毎日新聞の調査では25%まで下落した。また不支持率は69%で、菅(義偉)政権末期(2021年8月)の66%よりも高くなっている。
麻生太郎副総裁らから勧められたとはいえ、9月27日の安倍元首相の国葬で保守層の支持を期待した岸田首相にとって、これほどの支持率下落は大きな計算違いだったのではなかったか。
それでも岸田首相は「軌道修正」をしていない。広島選出の首相として核廃絶にはこだわるが、それ以外は柔軟。言い換えれば、都合が良いことには何でも対応するということだ。
そういう意味で防衛費のGDP比2%の財源をめぐる混乱も、なぜ発生したのかが理解できる。
各社世論調査で、防衛をめぐる支持は高いからだ。たとえば12月のNHKによる調査では、2027年度までの5年間の防衛費として43兆円を確保する政府方針には51%が賛成し、「反撃能力」を持つことについても55%が賛成している。
そもそも岸田首相が「防衛費の相当な増額」を言い出したのは、今年5月に来日したバイデン米大統領と会談した後の会見だった。バイデン政権との強い結びつきを見せつけ、アメリカと協調することを強く示した。
岸田首相はロシアに侵攻されたウクライナへの支援もいち早く行い、ロシアを強く牽制(けんせい)したバイデン大統領と歩調を合わせている。これは、トランプ政権と近かった安倍政権との違いをアピールしたようにも見えた。
アメリカ寄りの姿勢を示しつつ、世論にも合わせて。臨時国会終盤で、岸田首相の頭のほとんどが防衛費増額問題で占められたのではなかったか。だからこそ、12月8日の政府与党政策懇談会は、高市早苗経済安保担当相や西村康稔経産相を外したのではなかったか。2人は安倍元首相に非常に近く、アベノミクスの“信奉者”。企業にとってマイナスになる法人税増税に賛成するはずがないからだ。