経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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植田日銀が、ほどなく発足する。いかにして異次元からの帰還を達成するのか。そこに世の中の関心が集中している。
これは当然だ。世界の金融政策は、金利が動き、金利が上がる方向にどんどん突き進んでいる。その中にあって、独り日銀だけが金利が動かず、金利が下がらない領域に止まっている。この異常な金融政策を、新総裁はいかにして正常化の方向に誘導するのか。そこに世間の注目が集まるのは、もっともなことだ。
ただ、国際金融に精通している植田和男氏には、異次元からの帰還と同時に、地球的な視野で通貨問題を見てほしい。中央銀行は通貨価値の番人だ。この観点から今日的状況を見た時、何が見えるか。どんな通貨的風景が広がっているのか。
それは、分断と対立の風景だ。ロシアと中国の通貨的接近が急速に進んでいる。対ウクライナ侵攻に対する経済制裁の一環として、ロシアは国際的なドル決済網から締め出された。資源関係の一部の取り引きを除いて、ドルを稼ぎ出す道が閉ざされた。こうして金欠状態に陥りつつあるロシアが、対外決済を自国通貨のルーブル建てと中国の人民元建てに切り替えつつある。非ドル決済に応じてくれる相手を確保しようと必死になっている。中国も、この流れに大いに協力する構えを示している。
中国の対ロ姿勢は、微妙ではある。ある時までさかんに使っていたロシアとの「無限でタブー無き協調」という言い方は引っ込めている。プーチン大統領のあまりにも無謀で頑ななウクライナ攻撃に、さすがに、怯みを感じているのだろう。