「でも、それは机上論です。本人からすれば一生懸命に働いて、がんばって税金や社会保険料を納めている」
その結果、生活保護基準とほとんど変わらない生活というのが切ない。
■初めて目にする光景
14年前の「年越し派遣村」と比べて、食料品を受け取る人の顔ぶれも変わった。女性が増えた。子ども連れで訪れる人もいる。
「大体2割弱が女性ですが、これは衝撃的な数字です。『年越し派遣村』では約500人が来ましたが、そのうち女性はわずか5人だったといわれています」
年越し派遣村に来た人の多くが自動車や精密機械など製造業の労働者で、地方の工場で派遣業務についていた30~40代の男性だった。
「現在、行っている食料品の配布はいわゆるホームレス支援の延長上にあるわけですが、そこに女性が来るのはまれでした。炊き出しを訪れると、そこには男性がいる。見られたくないし、知られたくない。そんな理由で女性を目にすることはかなり少なかった。なので、女性が約2割というのは、前代未聞の数字です」
子ども連れも、平均すると毎回3、4組が訪れる。
「私は路上での支援活動を10年以上やってきましたが、初めて目にする光景です」
さらに、10代後半から30代の若年層も増えている。
「見た目での判断なので正確な年齢の割合はわかりませんが、これまでわれわれが行ってきた活動のなかでは明らかに若い方の割合が多くなっています」
これまで貧困は、どこか特殊な人の話だった。公的支援の枠組みを広げようとすると、「特殊な人のために、なぜ税金を使うんだ」という議論になりがちだった。
大西さんは言う。
「そういった意味では、誰もが貧困になる可能性を感じる世の中になった。自分も使うかもしれないからセーフティーネットは必要だよね、というふうに理解が進むようになった。以前は『貧困=自己責任』だといわれましたが、今起こっていることは、それが少しずつ変わっていくきっかけになるでしょう」
■相手の顔が見られる喜び
一方、食料品の配布を支援する企業の動きも少しずつ広がっている。
「まだ一部ではありますが、このようなテーマに関心を持ってくれる企業が徐々に増えています」
企業名は明かせないが、多いのは外資系企業だという。