65歳以上の高齢者が50%以上いる地域を「限界集落」という。それは山間部にあるイメージだが、実は東京23区内にも10カ所ほどの限界集落が存在する。その地区のほとんどを東京都の都営住宅と公社住宅が占めている。「東京の限界集落」の一つ、世田谷区大蔵3丁目は2番目に高齢化率が高く、住民のほとんどが総戸数1264戸の団地「大蔵住宅」で暮らしている。現在、大蔵住宅では建て替え工事が進められている。旧住民は、新しく建てられた「カーメスト大蔵の杜」に入居した若い世代とどうコミュニティーを築き上げていくのか。現地を訪ねた。
* * *
「大蔵住宅に自治会ができてからもう63年がたちました。私たちは北海道から沖縄県まで、本当にいろいろな県人の集まりで、みなさんと仲よしになりました」
そう語るのは、自治会長の宮崎春代(86)さんだ(この取材の直後、亡くなられた)。
大蔵住宅は1959、60、63年度にわたって建てられた30棟の大規模団地である。
小田急線祖師ケ谷大蔵駅の南口から商店街を抜け、15分ほど歩くと、住宅地の向こうに大蔵住宅の建物が見えてくる。
団地の東西を幹線道路の世田谷通りが貫き、西側には仙川が流れる。ここは貴重な自然が残された「国分寺崖線保全整備地区」に指定され、団地内の森の斜面からは湧き水が流れ出る。春になれば桜が見事に咲き誇る。
現在は住宅や日本大学商学部、国立成育医療研究センターが隣接する文教地区だが、群馬県出身の宮崎さんが大蔵住宅に引っ越してきた58年前には、田畑が広がっていた。
「家の掃除や洗濯をすませると、みんなでお菓子やおにぎりを持って仙川に行ってね。そこでいろんなものをとって、遊びました。楽しかった思い出がいっぱいあります」
と、宮崎会長は振り返る。
■長屋のようなコミュニティー
入居当時、団地には子どもたちが大勢いた。盆踊りや団地祭、バス旅行、防災訓練など、自治会はさまざまなイベントを企画し、住民同士のつながりを深めてきた。
「子どもたちが巣立った後も長年住んでいると、友だちと親戚以上に親しくなりました。家を訪ねて、暗くなるまでおしゃべりして。で、夕飯食べる?って。私も料理をつくって持っていったりした。でも、年をとるとだんだん足が遠のいてしまった。夜は転んでけがをするといけないですし。お互いにそうだから、家を訪問するのをためらってしまう」