「反対意見としては、子どもたちが生まれ育った団地が生まれ変わってしまうと、子どもたちの思い出がなくなってしまう。それが嫌だ、と。でも、反対意見はそれくらいで、総論としては賛成していただけました。ただみなさん、建て替えにともなう移転についての不安の声が非常に多かった」(JKK東京の担当者)
大規模団地を建て替える際、最も大きな問題の一つが「移転」である。
古い団地には結びつきの強いコミュニティーが形成されている。それが建て替えによる移転で崩れてしまうのではないか、という不安は特に高齢者には強い。昔からの人づき合いが失われてしまえば、そこへ戻ってくる理由が薄れてしまう。
前出の宮崎会長は、こう胸の内を明かした。
「ずっとここに長く住んでいますから、ここに居続けたい。遠くへは行きたくない。かかりつけのお医者さんや買い物のこともあります。それでみなさん、本当に悩みましたね」
■住民6割が戻ることを望んだが
ただ、大蔵住宅の場合、大規模団地ならではのメリットがあった。建て替え工事は団地内を街区に区切って順番に行われる。現在、第1~4期の工事のうち、第1期が完了した。住民が新しい建物に移り住み、それによってできた空き家を利用することで、団地外に移転せずにすむ。
「団地内の空き家に仮移転を希望する人が結構いて、抽選で入居するんですよ。みなさん、何号棟の何階を申し込んでみようとか、友だち同士でいろいろ作戦を練っているみたいです」(宮崎会長)
17年12月の時点で、建て替え後の戻り入居を希望する住民の割合は59.6%だった。しかし、実際に建て替えが終わった住宅に入居したのは36.2%に減った。
「いったんは仮移転したものの、息子さんや娘さんからすれば、高齢な親がこれまでとは勝手の違う新しい住宅に1人で住むのはとても無理だろう、と。そう判断されたケースはかなり多かった。気持ちとしては本当は戻りたかったと思うんです。でも、80代、90代の方はなかなか体がついていかない。老人ホームのような施設を選択された方も結構いらっしゃいました」(JKK東京の担当者)