今は配偶者を亡くして一人暮らしの住民も少なくない。
「そういう方にはときどき声をかけるの。何号棟にどういう方がいらっしゃるか、把握していますから」
筆者自身、築54年の団地に住み、さまざまな団地を訪ね、住民に話を聞いてきた。古い団地には昔の長屋のような住民同士の濃いコミュニケーションがある。それを心地よいと感じるか、それとも、煩わしいと感じるかは人それぞれだが、少なくとも地域の支え合いや、高齢者や子どもの見守りという点では最近のマンションよりもしっかりしていると感じる。
高度経済成長期に次々と建てられた団地の入居者は同じ年代の世帯が多く、住民同士の交流が深まりやすかった。ただ、最近では居住者の高齢化がかなり進んでいる。
2020年の国勢調査によると、大蔵住宅がある大蔵3丁目の65歳以上が占める高齢化率は60.9%。23区内では2番目に高い(人口13人の千代田区有楽町1丁目などは除く。ちなみに最も高齢化率の高い大田区東糀谷6丁目は羽田空港に隣接する地域)。
■反対よりも不安が多かった
そんな大蔵住宅の住民に建物の所有者であるJKK東京(東京都住宅供給公社)から正式に建て替えが伝えられたのは14年5月だった。
「すべての居住者に、大蔵住宅は建て替え住宅に選定されました。3年以内に事業に着手します、という文書を配布しました。正直、『えっ』という反応もありましたけれど、みなさん非常に前向きにわれわれの話に耳を傾けてくれました」
JKK東京の担当者は、そう振り返る。
都内でも世田谷区には建て替えに選定された古い住宅が特に多い。なかでも大蔵住宅はJKK東京の建て替え事業としては最大規模だった。
「大蔵住宅の自治会には、住民が集まって、いろいろな問題を話し合う『語ろう会』というものがあったんです。そこにわれわれが呼ばれていって、本当に車座になって話し合いました」(JKK東京の担当者)
50人ほどの住民が集まり、会場はギュウギュウ詰めになった。そんな話し合いが1日に2、3回行われた。