「どう考えても今の制度は時代に即していない」というサイボウズの創業者で社長の青野慶久さん(写真提供/サイボウズ株式会社)
「どう考えても今の制度は時代に即していない」というサイボウズの創業者で社長の青野慶久さん(写真提供/サイボウズ株式会社)

 ところが翌年、東京地方裁判所での一審は敗訴。20年に行われた東京高等裁判所での二審でも、訴えは棄却された。さらに21年、裁判は最高裁で理由が示されることなく、別の夫婦別姓裁判とまとめるような形で上告棄却。弁論の余地すらなく、何もできないままに敗訴が確定した。

「裁判を起こしたことで、今の裁判制度がいかに機能していないのかを思い知ることになりました。ただ、棄却されたりするたびにメディアにたくさん取り上げられて、夫婦別姓が世論として広がったことは良かったと思う。今の制度に問題があるという考えを広める機会につながった」(青野さん)

 自身の苦しい経験を元に原告として表に立ち、声を上げる青野さんの姿を、妻はどう見ているのだろうか。たずねると、青野さんは「実は夫婦の間では、名字の話はタブーになっている」と打ち明けた。

 いわく、妻からすれば、青野さんが名字を変えたことに対し、「“自分の名字に変えさせてしまった”という負い目」があるという。現行の制度である限り、どちらかの名字を“捨てる”ことになり、「どちらかが変える側で、どちらかが“変えさせる側”になる」(青野さん)。

 つまり、どちらにとってもつらく、苦しい選択となりうるのだ。こうしたことから、いつしか夫婦の間で、名字にまつわる話題はタブーとなった。裁判についても、妻と話したことはないという。

「名字を変えた苦しみもあれば、変えさせてしまった苦しみもある。“夫婦どちらかが絶対に名字を変えないといけない”という今の制度がある以上、この苦しさからは逃れられない。夫婦共働きが当たり前となった時代、名字を変えることで仕事上でも日常生活でも不便や不利益が生じている。どう考えても今の制度は時代に即していない」(青野さん)

 つらさや苦しさ、生活上での不便や不利益を感じている人は、「事実婚」という選択肢を選んだ人の中にも数多く存在する。

(松岡かすみ)

連載第1回も読む>>夫婦別姓のリアル「名字、捨てちゃったんだ?」 妻の名字になった夫へ浴びせられる言葉と眼差し

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