「選択的夫婦別姓」と聞くと、途端に「ジェンダー問題か」「“意識高い系”の人の話でしょ」と興味を失う人は少なくない。だが当事者らは、必ずしもジェンダー意識が高いわけでもなく、名字に対して強い信念を持っていたわけでもない。むしろ名字に対して特に執着がなかったがために選んだ選択が、後に「まさかこんなことが起きるなんて」というような生活上の不便や苦労、偏見などに突き当たり、現行の「夫婦同姓」制度に強い問題意識が芽生えるケースも多い。名字を変えて苦労を重ねた経験から、原告として国を訴えるに至ったIT企業社長も、その一人で――。
夫婦別姓連載第1回はこちら>>夫婦別姓のリアル「名字、捨てちゃったんだ?」 妻の名字になった夫へ浴びせられる言葉と眼差し
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「まさか自分が裁判を起こす側になるとは、夢にも思いませんでした」
1,000人以上の社員を抱える東証プライム上場のIT企業、サイボウズの創業者で社長を務める青野慶久さん。約20年前の結婚のとき、妻の姓に変えるというマイノリティーな選択をした男性の一人だ。
変えたくて名字を変えたわけではない。結婚しようという話になったとき、妻が「名字を変えたくない」と言ったのが、そもそものきっかけだ。妻にも名字に対して強い信念と呼べるほどのものがあったわけではないが、「女性が名字を変えるのが当たり前という風潮は、おかしいと思う」と、シンプルな疑問を投げかけられた。
青野さん自身はそれまで、世間の大多数がそうであるように、当然のように妻が自分の名字になるものだと思っていた。というより、結婚後の名字について、特に考えたこともなかったというほうが正しい。
妻から「変えたくない」という言葉が出たことで、初めて名字について考えた。その結果、「だったら自分が変えようか」という結論に至った。時は2001年、今以上に男性が名字を変えることが珍しかった時代。
だが、周りを見回せば、結婚後、戸籍上では名字が変わっても、仕事上では旧姓を使用し続ける女性も数多くいる。その姿を見て、「さして問題はないだろう」「むしろ仕事とプライベートで名字を使い分けられて便利かもしれない」と、わりと軽い気持ちで妻の名字に変えたのだった。