慌てふためきカバンを探ると、たまたま旧姓のクレジットカードが財布の中に紛れ込んでいて、何とか事なきを得た。以来、海外に行くときには、“旧姓の証明書類”として、旧姓時代に作ったパスポートを持ち歩くことにしている。

「なんでこんなに面倒なことをしないといけないのか、と思いますよ。戸籍上と仕事上で、名乗る名字が異なることで生まれる不便や不利益は、想像以上にある。かといって、これまで仕事上で使ってきた旧姓を新たな名字に変えるとなると、その不利益や手間暇も相当なものになります。当事者になって初めて、改姓がこんなに大変で苦しいものなのかと実感したのです」(青野さん)

 18年、青野さんは国を相手に、選択的夫婦別姓を求めて裁判を起こした。代理人を務める弁護士が夫婦別姓訴訟を起こすのに際し、原告を募集しているという話が知人を介して舞い込み、「やります!」と手を挙げた。

 もともと裁判や法律に関心があったわけではなく、自分には縁遠い世界だと思っていた。ただ改姓して以来、日常のあらゆる場面で「なぜこんなに不便な目にあわないといけないのか」という疑問や怒りを膨らませ、「現在の『強制的夫婦同姓』の制度には、個人の尊厳を冒す重大な問題がある」という結論に行き着いていた。「別姓のままでも結婚できる選択肢を用意すべきだ」という強い思いを元に、原告に名乗り出た。

 訴えは、日本人同士が結婚するとき、それまで使ってきた名字を名乗り続けることができず、同姓にしなければならないという現在の法律は憲法違反だとするもの。ちなみに、日本人と外国人が結婚するときには、どちらの姓にするかを選ぶことができる。原告は、青野さんを含む4人。旧姓のまま結婚できなかったことで、大きな不便や不利益を経験してきた青野さんと女性、そして強制的夫婦同姓が婚姻の条件であるがために、事実婚に追い込まれたカップルだ。

「僕たちはあくまで代表で、これまで多くの人が結婚における『強制的夫婦同姓』によって、経済的、社会的、精神的にさまざまな苦痛を強いられてきている。社会に困りごとを抱える人たちを生み出す制度は変えなければならないという思いで、絶対に違憲判決が出ると信じて裁判を起こしたのです」(青野さん)

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何もできないまま裁判の行方は?