写真はイメージ(GettyImages)
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 妻の名字にすると決めたとき、妻の両親から「名乗っていただき、ありがとうございます」と言われた。正直なところ、「お礼を言われる筋合いはないんだけど」と微妙な気持ちになった。自分の両親からは、「ちょっと寂しい」と言われたが、自分の選択が揺らぐほどの影響にはならなかった。友人からは、この短期集中連載第1回の記事の筆者の夫と同じく、「婿養子に入ったの?」と聞かれることがあり、世の中には婿養子という“偏見”があることを知ったという。

 結婚してからすぐに、名字を変えることが、「むちゃくちゃ大変だ」と痛感する事態が続出する。まずは、青野さんが「改姓ドミノ」と名付けた、各種書類関係の改姓手続き。運転免許証、健康保険証、さらに免許証を証明書としている銀行口座や証券口座、クレジットカード、飛行機のマイレージカードや携帯電話の登録名義……名前を登録している、ありとあらゆるものの変更手続きに追われた。

 多忙な仕事の傍ら、そうした手続きに追われるストレスは想像以上だった。特に役所関係の手続きには、平日の勤務時間が奪われることになる。結婚後に、旧姓でつくった銀行口座を解約する手続きにも、戸籍謄本が必要だと言われ、何度役所に出向いたか分からない。

「平日に休みを取ったり、貴重な休日が名字の手続きで潰れてしまったり。あまりに不毛な時間だと感じ、僕にとってはストレスでしかありませんでした」(青野さん)

 仕事上では旧姓の青野を使い、戸籍上では名字が違うことで、トラブルが発生したこともある。海外にも拠点を持ち、出張が多い青野さんだが、アメリカのスタッフが宿泊先を旧姓の「AONO」で予約したことがあった。アメリカでは夫婦別姓が当然のように選べるのだから、多くの場合「仕事上の名字と戸籍上の名字が異なる」という発想すらないはずだ。

 飛行機でアメリカに飛んだ青野さんが、深夜ホテルに到着してパスポートを見せると、「予約がない」と言う。「AONOでは予約があるか?」と聞くと、フロントマンはけげんな顔をして「あなたのパスポートには、AONOの文字がない」「もしあなたがAONOなら、AONOである証拠を見せろ」となった。

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