■開胸手術か小切開(MICS/ロボット手術)か

 心臓弁膜症の手術は、以前はすべて胸の中央を切開する開胸手術(正中切開手術)でしたが、近年では胸部の横を小さく切開するMICS(小切開低侵襲心臓手術)や、同じように小切開でできるロボット手術がおこなわれるようになっています。どちらも人工心肺を使用します。

 MICSやロボット手術は出血量も少なく傷痕も小さいというメリットがありますが、狭い部分から内視鏡を使っておこなうため高度な技術が必要です。また心臓を止めている時間は、開胸手術より長くなることがあります。

 埼玉医科大学国際医療センター心臓血管外科教授・医学博士の中嶋博之医師は次のように言います。

「MICSなど小切開でおこなう手術では、切開部分が狭いので操作がしにくく、その分、時間がかかることもあります。複雑な形成が必要など難しい事例では、人工心肺や心停止をおこなう限られた時間を考えて、開胸のほうが適していると判断する場合もあります」

 手術の方法については患者の希望も考慮されますが、人工心肺を使う大きな手術だけに、最も重要なのは弁の修復がきちんとできて生還することだと、二人の医師は口をそろえます。

 具体的なケースを見てみましょう。65歳の男性、自覚症状や他の病気などは特になく、会社の健康診断を受けたところ、聴診で心雑音を指摘され、精密検査をすすめられたケースです。病院で心エコーを受け、僧帽弁が高度に損傷しているので手術が必要だと診断されました。

「症状が何もなくても、弁の損傷がひどい場合には手術をすすめます。壊れた弁は自然には治らず、そのままにしておくと心不全が進んでしまうからです。弁形成術をおこなう必要がありますが、65歳と比較的若く体力もあり、小切開(MICSまたはロボット)での手術が適していると判断しました」(藤田医師)

 患者としては、会社を経営していて長く仕事を空けられず、できるだけ早い社会復帰を望んでいました。また学生時代からサーフィンが趣味ということもあり、胸の中心に大きな傷痕が残るのは避けたいと考え、手術時間などの説明を十分に受けた上で小切開での手術を希望しました。

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心臓弁膜症のカテーテル治療は限定的に適応