「熾烈な受験競争を緩和しようと、学力によりすぎない選抜として推進されてきたのが、学生簿を利用する入試方法です。イメージは日本のAO入試に近いですが、韓国では学生簿重視の入試がむしろ主流。学歴社会をサバイブするために、“良い”学生簿をもつことが重要なんです」(松本准教授)

「いじめ加害の記録」がその後の人生についてまわることに対しては、人権保護の観点から緩和方向に動いてきた。当初は卒業後10年と定められていた学生簿の保存期間は、現行では2年間に短縮されている。また、処分内容の記載に関しても、1~3号と7号は卒業と同時に削除され、4~6号は卒業時に委員会の判断で削除も可能になった。ただし、高校在学中に大学入試を受験する際に、「いじめ加害の記録」が参照されることには変わりがない。

■いじめ対策が進む韓国と進まない日本、その違いは

 日本で2013年に定められた「いじめ防止対策推進法」では、いじめ加害者に対する停学や出席停止の処分が認められている。ただし処分の判断は校長や教頭、教育委員会に委ねられており、実際のところは加害者が明確な処分を受けることは少ないのが実情だ。そのうえ、学校によるいじめ隠蔽が後を絶たない。

 韓国の総合対策では、いじめ加害者の処分だけでなく、いじめの隠蔽が発覚した場合の校長や教頭への処分も定められている。なぜ韓国は、ここまでいじめ対策制度の拡充を進められたのか。松本准教授によれば、韓国のトップダウン的な政治のあり方が大きく関係しているという。

「学歴社会、格差社会を生き抜く切り札として、教育は国民の最大の関心事です。直接選挙で選ばれる韓国大統領が、国民に最も大きくアピールできるテーマが教育であるということですね。そして、韓国は超トップダウン政治で、大統領のひと声が一気に政策を動かしてしまいます」(松本准教授)

 このように、特に2012年以降、いじめ対策制度の策定を強く進めてきた韓国だが、いじめを原因とする自殺の事件は度々発生しており、期待されたほどの結果は出ていないのが実状だ。それでも、韓国の学生のいじめに対する意識が日本の学生よりも重いことは確かだという。

「学生簿にいじめ加害の記録が残ると少なからず進学にかかわります。処分が下されれば、それを学生は『人生終わった』と受け止めるでしょう。制度がいじめに対して抑止力として働いていることは間違いありません」(松本准教授) 

(文・金山佐和)

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