■課題は「公平性」と「加害者の人権保護」

 韓国におけるいじめ対策の法律や制度が改定を重ねるなかで、論点となってきたのは「公平性」と「加害者の人権保護」だ。

 たとえば、2019年以前は、学校ごとに置かれた「学校暴力対策自治委員会」が審議を担っていた。これは過半数がその学校の生徒の親、その残りが教頭、生徒指導担当の教師などで構成される。

「事案に関わりの深い立場の人が審議にあたるため、両成敗的な加害者に“甘い”判断が下される傾向がある、同程度の深刻さの事案でも学校ごとに処分の重さが違うなど、被害者と加害者の双方から公平性に対する不満の声があがっていました」(松本准教授)

 そういった批判を受け、2019年の「学校暴力予防および対策に関する法律」改定以降は学校ごとではなく、自治体ごとに設けられた「学校暴力対策審議委員会」で審議が行われるようになった。

「『学校暴力対策審議委員会』は地域の学校の保護者や教員、公務員で構成されており、より客観的な視点で審議が行われるようになった点では改善されたといえます。一方、現場の人間が少ないことで、学生の更生や回復といった、教育的観点がこぼれ落ちてしまうのではという新たな懸念も浮上しています」(松本准教授)

■いじめ加害の記録があると、大学受験で不利に

 また、総合対策では処分内容を高校の「学校生活記録簿」(以下、学生簿)に記載することを義務づけている。そこで論点となってきたのが、「加害者の人権保護」だ。学生簿は、日本でいう調査書のようなもので、データベース上で管理されている。出席状況や成績、校内での活動などが記されており、大学受験や高卒者の就職活動で参照される。つまり、「いじめ加害の記録」がその後の人生に大きく関わる可能性があるというわけだ。

 ほとんどの韓国の学生は、大学受験がはじめて経験する学力選抜となる。韓国ではごく一部の学校を除き、私立であってもすべての小学校・中学校・高校が選抜を行うことを認められていないのだ。

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なぜ韓国はいじめ対策に力を入れるのか