■接し方はマニュアル化できない
長い受験期間、子どもと険悪になり自己嫌悪に陥ることもあれば、成績が上がらない子どもにどう声かけをすればいいか迷うこともあるだろう。だが、「子どもとの接し方のほとんどはマニュアル化できない」と矢野さんは言う。
入試当日にどんな声を掛けるか。思うような結果が出なかった時、どんな表情と言葉で接するか。
そこに“正解”はない。
必要とする言葉も、心に響く言葉も一人一人違う。マニュアル化された言葉を掛けても、子どもに伝わる訳がない。生まれてからの長い付き合いのなかで、どんな言葉を口にするのが一番効果的なのかは、親が一番よくわかっているはずだからだ。
そして、中学受験が終わり、学校生活がスタートしてからが本番だ。
「学校が好きな子は、中学に入ってから成績が伸びる」
矢野さんは中高一貫校の教師たちから、そんな言葉を何度となく耳にしてきた。
「たとえ第一志望でなくとも、合格した学校に入学することを親が心から喜び、その気持ちを伝えれば、子どもは中高生活という近未来に対してワクワクできる。塾講師の言うことよりも、長く接してきた親の言葉はそれだけ強い意味を持つのです」
親がわが子に向き合う気持ち、そして経験から発せられる自然体の言葉こそが、子供たちが前を向いて歩き出す原動力となる。(古谷ゆう子)
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