「強いる」という動詞が組み込まれていることもあり、「勉強」という言葉には歯を食いしばり耐え忍ぶというイメージも付きまとう。だが、「学ぶことは、本来楽しいものだ」と矢野さんは言う。

 矢野さん自身、中学受験を終えた娘と、これから中学受験に臨む息子がいる。矢野さんは中学受験塾を経営するとともに、実際に生徒指導に携わったり、メディアや書籍で中学受験の情報を頻繁に発信したりしている。また、そのかたわらで社会人大学院生として言語学の研究に取り組んでいる。そのように多忙であるがゆえ、わが子の受験勉強に関わることはほとんどないし、そもそも親が子どもの「偏差値」を作りあげることに何の意味があるのだろうか疑問視している。そんな思いを抱く一方で、子どもたちの近くで読書をしたり、大学院生として勉強する姿などを見せたりするなどして、親自身が楽しみながら学ぶ姿勢を見せるように心がけたという。

 子どもは親の姿をよく観察している。ぴったりと付き添って勉強をみるよりも、親が積極的に学ぶ姿勢を見せた方が良い影響があるのではないか、と感じているからだ。

■普段の親子関係が問われている

 子どもの勉強に対する態度に親がイライラして、中学受験期間中にバトルを繰り返す親子は少なくない。だが、受験という特別な環境だからこそ、問われているのは普段の親子関係ではないか、と矢野さんは指摘する。

「普段の親子関係がギクシャクしているのに、中学受験の間だけ親子がひとつになれる、ということはまずないと思います」

 その上で、両親の“バランス”も大事になる。父親、母親問わず、片方が受験勉強を熱心にサポートする、という姿勢ならばもう片方の親は「中学受験なんてどうでもいい」というスタンスでいた方が子どもの“逃げ場”が確保される。

 一方で、近年はシングルファザー、シングルマザーとして子育てをし、受験に挑む親も少なくない。

「そのようなご家庭は塾とうまく連携していくことが大切です。実際、この連携が実を結んで、難関といわれる中学に合格を果たしたケースは枚挙にいとまがありません」

 入試が近づき、焦りから冷静さを失いそうになったら、「首都圏でさえ私立・国立中学入試の受験率は18%以下。中学受験はまだ少数派の世界である」と一歩引いて客観視することも大切だという。

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「学校が好きな子は、中学に入ってから伸びる」