この試験の主任研究者の一人である広島大学病院呼吸器外科長で教授の岡田守人医師は「驚きの結果だった」と言います。
「当初は、区域切除が肺葉切除と比べて主要評価項目の全生存期間が明らかに悪くない(非劣性)ことを証明する想定でした。しかし区域切除のほうが全生存期間が明らかに上回るという優越性が証明されたのです」
つまり「局所再発のリスクが高い」という区域切除のデメリットを「機能を温存する」というメリットが上回ったことになります。
「肺実質を大きく切除すると呼吸機能が落ちるだけではなく、心臓など重要な臓器にも負担がかかり、全身にさまざまな影響が出ます。実際に患者さんを診ていると、肺葉切除と区域切除した人とでは、術後の回復も大きく違い、後者が明らかに速いのです」(岡田医師)
ただし、区域切除は肺葉切除に比べて手術の難度が高いため、全国どこの病院でも根治的な区域切除を実施できるともいえません。このため、ガイドラインでは2センチ以下でリンパ節転移がない場合、肺葉切除、区域切除どちらも標準治療となっています。
からだの負担が少ない手術として、胸腔鏡手術やロボット手術も普及しています。胸部に開けた1センチ大の数カ所の穴に器具を入れて操作し、がんを切除します。
「約20センチ程度切開する開胸手術と違って傷が小さく、呼吸筋を切開しない分、からだへの負担が少なくなるのはもちろんですが、手術直後から深呼吸ができるということも患者さんにとって大きなメリットだと思います」(遠藤医師)
手術ができない場合は、放射線治療や薬物治療が中心となります。近年、放射線治療の機器が進歩し、手術が不可能な早期のがんに対しては、根治を目指して放射線治療を選択する場合もあります。高線量の放射線をピンポイントで照射する定位放射線治療(SBRT)は、単独でがんが消えることも期待できます。ただし放射線治療では、病巣を切除せずに照射するため、がんの正確な進行度や遺伝子変異などの情報が得られないという欠点があります。