高山さんが亡くなって丸2年過ぎた。亡くなる3カ月前、20年の7月に緩和ケア病棟に入りました、と高山さんから電話があった。仕事上の関係者、親しい友人、みんなに電話をしていた。お別れの挨拶だった。電話での声の調子は明るく、「少し前まではとても悔しくて、夜も眠れないほど怒り続けていたけれど、今はそうではなくなったの」という話をしてくれた。一字一句、高山さんの言葉で記憶できていたらいいのだけれど、私は呆然としてしまっていて、ほとんど何も返せなかった。高山さんの声を聞きながら、部屋の窓から夏の空を見上げていたことを覚えている。そんなふうに死の準備をされた高山さんは、ほぼきっかり3カ月後に逝かれた。

「エゴイスト」の映画化が決まったのがいつかは分からないが、俳優らのインタビューを読む限り、高山さんの生前から動きはあったようだ。だからきっと、高山さんは知っていたのだと思う。私の小説が映画になるわよ、と。みんなビックリしてちょうだい、そして妬んでちょうだい、思いっきり!と顎を思い切りつきだしてオホホと笑う高山さんの姿が目に浮かぶ。「私」を鈴木亮平が演じるのよ、と小指をたてコーヒーカップを持つ高山さんの姿が見える気がする。エゴイストは、高山さんがつけていたシャネルの香水だった。久しぶりに、その香りをかぎたいなと思う。

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