元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
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 元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんが秋口から根性で編み続けたロングマフラー

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 対話型AI「チャットGPT」の利用者が爆発的に増えていることが話題になっている。質問を投げかけると、人と会話しているような自然な文が返ってくるそうだ。ネットで読んだ体験記によれば、チャットGPTは「会話の達人」で「物理の話もできるし、宿題もやってくれるし、頼めば詩を書いてくれたりもする」。しかも無料。確かにそのやりとりを読むと、文は洗練されているし内容も実にバランスが取れている。なぜこんなことができるのかといえば、膨大に蓄積したデータから独自のアルゴリズムで文を生み出すらしい。よく考えれば私だって会話したり文を書いたりするときは全く同じ作業をしているわけで、ただ私に蓄積されたデータはとてもじゃないがAIに敵わない。うっすい知識でテキトーなことを書いている私……。多くのライターが仕事を失うという懸念はその通りと思わざるを得ない。

 いや……すごいね。ちょっと前まで、これからの時代はAIにできないスキルを身につけないと職を失うとか言ってなかったっけ? ゼロからモノを生み出すクリエイティブな能力が必要とかなんとか。で、正直私、ものを書く仕事はまさにモノを生み出す仕事なので大丈夫と思っていた。愚かなり。私程度のクリエイティブなどAIが本気出したらクズ同然なのかもしれぬ。

秋口から根性で編み続けたロングマフラーがようやく完成するも、既に春の気配……(写真:本人提供)
秋口から根性で編み続けたロングマフラーがようやく完成するも、既に春の気配……(写真:本人提供)

 このまま行くと、AIにできない仕事などどこにもないというミもフタもない事実を突きつけられる時代も遠くない気がする。で、そのとき人類はどうするのだろう。

 ちなみに朝日新聞は、チャットGPTを「私たちの暮らしを向上させる可能性を秘める技術」と報じていた。文を書くという面倒なことをやらなくとも済むことが「暮らしの向上」? だとすれば、面倒じゃないことだけをやって生きるのが究極の豊かな暮らしってこと? となれば、仕事というどう考えても面倒の塊をAIがなんでもやってくれる時代ってザ・ユートピアじゃん! ゴロ寝で暮らす、的な? で、それって死んでるのとどう違うのか。

◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2023年2月27日号