撮影:松田優
撮影:松田優

■ファンではなく取材者として

 さらに松田さんは「消えゆく大衆文化として記事にしたい」と、会社に企画を出し、取材を始めた。

 最初に松山で撮影した踊り子は、松田さんがストリップ劇場に通うきっかけとなった日大時代のドキュメンタリー映画に映っていた女性だった。

「彼女のブログにメールアドレスがあったので、直接メールして、撮影の承諾を得ました。劇場に電話して『本人からOKをいただきました』と言ったら、『それなら、どうぞ』という感じでしたね」

 広島第一劇場では主に3人の踊り子を中心に撮影した。

「最初の踊り子さんは劇場の社長に紹介してもらいました。その次からは、撮らせてもらった踊り子さんに紹介してもらった。私には好きな踊り子さんがいるんですけれど、自分からは、この人を撮らせてください、と言わないようにしています」

 ファンの目線で踊り子を撮影するのではなく、松田さんはあくまでも取材者として相手と適度な距離を保つことを心掛ける。

 松田さんの話を聞いて意外だったのは、踊り子たちがステージの上だけでなく、舞台裏での撮影もすんなりと受け入れてくれたことだ。

「出番の直前からではなくて、朝の準備段階から撮らせてもらえませんか、とお願いしたら、『じゃあ、何時に来ますか』という感じで、基本的に何でも撮らせてくれました。もう、がっつり楽屋に入れさせてもらって、シャワーを浴びているところも撮影した。すっぴんの状態から、化粧して、衣装を着て、舞台に下りるところまで。みんなすごく落ち着かれていました」

撮影:松田優
撮影:松田優

■楽屋で寝泊まり

 劇場の楽屋は彼女たちにとって、生活の場でもある。

「広島第一劇場では楽屋で寝泊まりしている方もいました。もちろん部屋には布団があるし、ご飯もそこで食べる。だから、楽屋は面白いんですよ。ただ、私がずっと楽屋にいるとしんどいでしょうから、また来ます、と言って、出たり入ったりしていました」

 温泉街のストリップ劇場は夕方からオープンするが、通常は昼すぎから営業が始まる。

「広島の場合、『4人香盤(こうばん)』と言って、踊り子さんが4人出演する。一人の持ち時間が約30分なので、ひとまわりすると2時間くらい。最終公演が終わるのは夜10~11時ごろ。なので、朝から撮影して、彼女たちの仕事が終わった後、いっしょにご飯を食べに行って、話を聞いたりしていました」

 踊り子たちは10日間をひと区切りに各地の劇場をまわる。出演が続けば休日はない。

「例えば、10日が楽日で、11日は初日。なので、10日まで小倉で、翌日から渋谷、という子もいる。夜通し準備をして、始発の新幹線で東京に移動するとか。忙しい人だと70日連続で踊ったりします」

 踊り子の年齢は20代から50代までと幅広い。

「第一線で活躍しているのはなんとなくですが、同世代の子たちだと思います。でも、みなさん年齢不詳で、確かなことはわかりません」

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情念を感じる「キスの壁」