■情念を感じる「キスの壁」

撮影:松田優
撮影:松田優

 広島の劇場にはかつて引退する踊り子が唇を壁につけ、劇場に別れを告げたのが始まりとされる「キスの壁」があった。

「舞台に出る直前にみんなこの壁の前を歩いていくんですけれど、例えば引退するときとか、もう広島に来ないときとか、この壁にチュッとして舞台に向かうそうで。これ、全部、唇の跡なんです」

 そう言って見せてくれた写真には薄汚れた壁が写り、そこにたくさんの口紅の唇の跡がついている。ひときわ鮮やかなものは閉館した日のものだ。

「この壁がすごく好きで、写真展には何枚か展示します」

 深紅の口紅も目を引くが、茶色く変色した古い唇の跡も女の情念がこもっているようで迫力がある。

 展示作品は楽屋など、舞台裏を撮影したものが大きくプリントされ、ステージを写したものはメインではない。

「すごく雑な言い方ですけれど、ステージの写真って、誰が撮っても同じじゃないですか。踊っている人が奇麗だし、照明も奇麗だし。誰でも奇麗に撮れる。でも、その裏側を撮っている人はあまりいない。やっぱり、人間性がこぼれる表情が写せるのは舞台裏かな、と思います」

 最近、松田さんは会社の仕事から離れてストリップ劇場を写している。撮る対象も変化した。

「以前は暗黙のルールとして、お客さんの顔は撮らないようにしていたのですが、お願いしてみると、意外と撮らせてくれる人がいました。なので、これからはお客さんも含めて、ストリップという文化を撮っていこうと思います」

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】松田優写真展「その夜の踊り子」
キヤノンギャラリー銀座 2月21日~3月4日
キヤノンギャラリー大阪 10月3日~10月14日