「行きたい」と健斗さんは答えた。心機一転、この生活を変えたかった。母親も、仕事を辞めて一緒に行くことを決意し、親子3人、新しい場所で生活を始めることにした。
生まれ育った土地を離れたことで、健斗さんは気持ちがラクになったという。しかし、これから何をすればいいのか、全く何も浮かばなかった。2度の失敗で、もう大学に行く気はなくなっていた。アルバイトでもしようかと思うが、人が怖い。ひとりでは地下鉄にも乗れない……。
2カ月ほどたったころ両親に勧められたのが、若者の就職を支援する「八おき塾」だ。
面接した代表の人に「やろうと思ったときやらないと、状況は変わらないよ」と言われた言葉が胸に刺さった。今度こそ変わらなくてはと思い知らされた。
■バーベキュー大会の幹事で「社会の中で生きる」実感
健斗さんは週2回「八おき塾」に通い、コーチングを受けて自分の現状を整理し、どうなりたいか、そのために何が必要か考える作業をした。
当番制で昼食係もやることになった。
「できないと思っていましたが、教えてもらったらできた。少しだけ自信がつきました」
塾に通うようになり1カ月がたったころ、コーチから思いがけない提案があった。
「今度のバーベキュー大会で、幹事をやってみないか?」
即答で断った。
「なんで自分なんですか? 自分より長い人はほかにもいるのに」
と尋ねると、つよく説得された。
「社会に出たらこういうことをする日がくるんだし、今のうちに経験しておかないと」
決まっているのは日時と場所だけ。それ以外のことはすべて健斗さんが決めて、準備しなくてはいけない。在校生だけでなく卒業生にも案内を送り、参加者を把握して、当日までの段取りをつくる。係を割り振り、購入するものをリストアップし、道具を手配する。交通手段なども調べて、参加者に待ち合わせ場所や持参するものなどを連絡する……。人に相談しないとできないし、お店とのやりとりも避けられない。腹をくくって頑張った。