「最初はイメージがつかめなかったのですが、いい写真というか、いい風景をガイドさんが教えてくれるわけです。秋だったので、虫食いの穴の開いた大きな葉っぱとか。それにレンズを向ける。もっと右、左とか、そこで押して、とか言われて、シャッターボタンを押す……まあ、ぼくが撮っているわけじゃないんだけど」
そう言いつつも西尾さんは「その風景が自分のものになった」ことを感じた。
さらに、「風景をフレームの中に入れて見る」ことに強い興味を覚えた。
「ぼくらは普段、ただなんとなく風景をザーッと見ていますけれど、それをフレームに入れて見るとすごく面白い。こういう見方をすれば写真を撮れるんだな、ということがわかった」
■プリントは「ただの紙」
日常、西尾さんには周囲がどのように「見えている」のだろうか?
「知らないところを歩いていると、まわりはみんなグレーです。何もない。そこで説明を受けると、頭の中にものが一つずつ浮かび上がってくる。それが写真の『フレーム』という限定されたものだと一層イメージしやすい。それは本当に新鮮でした」
写真教室の後半、作品の講評が行われた。参加者が写した写真がプリントされ、その内容について説明がされた後、みんながコメントした。
しかし、西尾さんは写真を撮ることに壁を感じた。
「プリントって、ぼくらにとってはただの紙なんですよ。それを見ようとすると、何が写っているのかを誰かに説明してもらわなければならない。写真を見るたびにそんな大変なことはできないと思った。でもそれは、写真はプリントして見るもの、という、昔の感覚だったんです」
その後、写真を撮れるようになったのは、「パソコンのおかげ」だと、西尾さんは言う。
「デジカメで撮影した画像をパソコンに移して、ファイル名に撮影時の様子をつけておく。例えば、葉っぱが写って、真ん中に虫食いがあるとか。それを読むと、ああ、あの写真だな、思い出す。たまに忘れるものもありますが、印象的な写真はどこで誰と撮ったか、全部覚えています」
さらに撮影の助けとなったのは画像に埋め込まれている撮影データ、「EXIF(イグジフ)」だった。
「これを見つけたときは本当にうれしかったですね。撮影したときのレンズの絞り値やシャッター速度がEXIFに書き込まれている。それと合わせて写真を何枚も見ていくと、カメラの設定を調整できるようになった。この時間帯だったら、このくらいの絞りでもう少し暗く写すとか」
■昔はかっこうだけだった
カメラの設定を変えて写せるようになると、「一眼レフがほしくなった」。それまで使っていたコンパクトカメラから一眼レフに買い替えた。すると、さらにボケを生かした表現ができる、もっと大きなカメラがほしくなった。
ピントをわざとボカして写すときは、まず近くの地面にオートフォーカスでピントを合わせて固定し、それからレンズを被写体に向けてシャッターを切る。
「ただ、ある程度は写りをイメージできますが、どのくらいボケてるかはわからない。なので、何枚も撮影する。それでもだめだったら、また来ます」