ただし、これは感情的な幻想とは無関係なものです。ヒトラー、ムッソリーニ、スターリンなどへの幻想です。
ロシアは独裁だ。その通りです。しかし、それは誰も何のイデオロギーも信じていない独裁です。プーチンのイデオロギーは、完全に折衷的で多様です。
そして西洋で起きているのは、一種の「超個人主義の出現」と「社会の細分化」です。人々は家族や自分の生活のことを考え、民族や国家、全体のことについてはあまり気にしません。同じことがロシアの内側でも当てはまります。ロシア人は、私たちにとてもよく似ているのです。
私たちが説明しなければならないのは、なぜ国民が参加したくない文脈で、国家間の戦いが起きるか、ということです。これは、米国人にも、ヨーロッパ人にも、ロシア人にも当てはまります。そして、日本人にも当てはまると思います。
つまり、現在のゲームは国家間のものであり、国民や民族間のものではないのです。
エマニュエル・トッド
歴史家、文化人類学者、人口学者。
1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新聞出版)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など。