家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。彼が指摘する、コロナからウクライナ戦争へと向かった現代と第一次世界大戦の始まりを比較することでわかることとは? 最新刊『2035年の世界地図』で語った民主主義の未来予想図を、本書から一部を抜粋・再編して公開します。
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■激変する世界で「歴史」はもはや役立たずなのか?
――ロシアのウクライナ侵攻後、さまざまな議論が行われています。ポスト冷戦期は終わり、西側対ロシアと中国の枠組みで、冷戦の初期段階に入った、というもの。いや、ロシアや中国のあからさまな国際法軽視は帝国主義への復帰を示している、というものもありました。こういった歴史への言及をどのように見ていますか。
人々は歴史について語りたがります。共産主義、ファシズム、全体主義国家の復活について……。フランスでは、いつも記念し続ける傾向があります。第二次世界大戦、レジスタンス……と、歴史的な話がたくさんありますよね。私は歴史家が本職です。
でも、歴史の話はまったく役立たずだと思います。なぜなら、私たちが経験しているのは、まったく新しい何かだからです。
ただ、私が人々に理解してもらいたいのは、過去の歴史になぞらえて現在を考えることのナンセンスを拒否することは、正しい歴史を否定することでもありません。
正しい歴史によって、何が違うのかを理解できます。全世界を5分で説明することはきませんが、ちょっと例を挙げてみましょう。
今、比較の話が出ましたが、地政学者はそのような比較はしません。比較対象は、全体主義国家などではなく、第一次世界大戦になります。なぜなら、第一次世界大戦は主要国による紛争でした。英国、フランス、ロシアが一方の側で、ドイツとオーストリア=ハンガリーが反対側でした。戦争末期になると、ロシアが崩壊し、米国も参戦しました。