渡辺:そうそう。なんだよ、記念作品に出ようと思ってたのに、映画出すぎだよ!って(笑)。

 本作で渡辺が一番気がかりだったシーンがある。

渡辺:吉田が相馬の民謡を口ずさむシーン。あれ、すごく難しい歌なんですよ。うまく歌えばいいというものでもないし。監督にも「すぐに音、しぼってね」とは言ってたんですけど。

佐藤:いやいや、世界のミュージカルスターですからねえ。

渡辺:ああいう和の音楽は難しいんだって! 誰の歌を聞いても、みんな節が違うし。

 原発事故という現実に起きた大惨事を真っ向から扱う。だからこそ感じたことがあると言う。

佐藤:原子力は本当に諸刃の剣なんですよね。何を肯定し何を否定するのか、簡単には測れない。非常にリスクも大きい作品だと思うけれど、だからこそ僕らがまずそこに向き合ったことで何かを届けられるのでは、と思っています。

渡辺:この問題は是か非かではない。僕らがこの映画で答えを出すわけではない。日本全国にいま原発があり同時に地震も水害も起こる。そういう国に僕らは住んでいる。少なくとも現状から未来へ何かを変えていかないといけないのは、はっきりわかっていると思うんです。どうすべきなのか、何から手をつけるべきなのか。向き合わざるを得ない問題を考えるヒントに、この映画がなってほしいですね。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年2月24日号