3.11のあの日、福島第一原子力発電所の中で何が起こったのか。映画「Fukushima 50」(フクシマフィフティ)が3月6日に公開される。前線で戦った二人を演じた佐藤浩市と渡辺謙が感じた「あの日」とは──。
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放射能という見えない敵に立ち向かった作業員たちを描く映画「Fukushima 50」。原作は90人以上の関係者に取材したノンフィクションだ。佐藤浩市は福島第一原発1・2号機の当直長・伊崎利夫を、渡辺謙は福島第一原発所長・吉田昌郎を演じた。不気味な地鳴り、襲いかかる津波──冒頭からリアルな描写に衝撃を受ける。
佐藤浩市(以下、佐藤):予想していましたが、思った以上に生々しかったですね。
渡辺謙(以下、渡辺):起こったことの重さは当然あるけれど、そこを包む人間ドラマに心を揺さぶるものがあった。映画はドキュメンタリーとは違う。事実を忠実に再現するだけじゃなく、エンターテインメントでこれをやることに、意味があると思っています。
佐藤:同感です。事故だけを描くような映画にはしたくなかった。同じ日本にいながら、僕らはあまりにもこの事実を知ろうとしなかった。「ヤバかったらしいよ」と他人事のように伝え聞くばかりで。まずは原発のシステムから勉強しました。
渡辺:なにより映画の最後で桜を振り返る浩ちゃんの顔! これまでも一緒に仕事をしてきたけど初めて心から尊敬という念を抱きました。「いい顔してるなあ!」って(笑)。
佐藤演じる伊崎は、メルトダウンの危険が迫る原子炉の最前線にいた人物。渡辺演じる吉田は、現場の全責任者として当時の報道でも頻繁に登場した。
佐藤:第一原発のなかで何が起こっているのか。行ってみないとわからない。だけど誰も行けない。実際に現場で作業員のみなさんが感じていた思いや恐怖に到底届くものではないけれど、それでも演じながら刻一刻と時間が過ぎていく焦りや感覚を追っていると、みんなの顔つきが変わっていくのがわかるんですよ。メイクで頬をこけさせたり、目の下にクマを作るなんて一切しなくても、そのままでやつれていく。