
義足エンジニアでサイボーグ代表の遠藤謙さんがAERAに登場。東京パラリンピックに向け、選手とともに競技用義足の開発を進める遠藤さんが、「希望する誰もが当たり前に走れる社会」の実現に向けて思いを語った。
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4年前のリオ・パラリンピック。海外メーカー2社がシェアを圧倒する競技用義足界で、開発を始めてわずか2年のベンチャー、サイボーグが存在感を示した。同社の義足を装着した佐藤圭太(28)が陸上競技の400メートルリレーで銅メダルを獲得したのだ。
「正解がわからない中、課題を見つけ、作っては試すを繰り返してきた。リオで彼が自己ベストを出したということは、少なくとも以前の大手メーカー製の義足と同質にはなったと言える。それが大きな自信になった」
その後、海外の有力選手もサイボーグ社製の義足を使用し始めた。2017年5月に正式契約したアメリカのジャリッド・ウォレス(29)とも新たな義足を開発。彼は同年の世界パラ陸上選手権で200メートルの金、100メートルは銅メダルに輝いた。東京パラリンピックでは世界最速へ挑戦するランナーだ。
自らを「人間中心主義のエンジニア」と語る。ものを作ること自体が目的ではなく、誰かが抱える課題を解くためのアプローチの一つがものづくりだという。義足の研究に取り組むため、米マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学した理由も、骨肉腫で足を失った高校の後輩のために役立つものをつくりたかったから。技術よりも選手を中心に置く。
「心がけているのは、義足を作ろうとは思わないこと。選手自身の理想の走り方が先にあって、その走り方をするためにはどんな義足が必要かを考えています」
今年の東京パラリンピックが社会変革の契機になることを期待する。
「障害のあるアスリートが自らの身体能力を拡張し、健常者をも超える記録に挑戦する姿を見て、人間ってなんだっけ、障害者ってなんだっけって考えるきっかけになる。だから、僕らは世界最速を目指すんです」
(編集部・深澤友紀)
※AERA 2020年2月24日号