ところが、そんな派手な相撲とは裏腹に、宇良自身は、自分の得意は押しだと語る。少年時代の指導者の方針で、徹底的に押しを磨いた。そんな押しの強さがあるからこそ、アクロバティックな技が決まるのだ。

 学生時代、宇良は関西学院大、炎鵬は金沢学院大と、いずれも西日本の2部の弱小校に所属し、1~2年時の宇良は65キロ未満級の選手だった。しかし、一念発起して肉体改造に挑み、同学年のトップ選手の北勝富士(当時日体大、現在幕内)などを倒すほどの実力をつけた。

 2学年下の炎鵬も当時、そんな宇良の活躍に刺激を受け、金沢学院大を1部へと押し上げ、4年の時には西日本学生選手権で常勝・近畿大を退けて団体優勝を成し遂げている。

 宇良は、旋風を起こした後、ヒザのケガで休場が続いて番付を落とし、下から2番目にあたる序二段に陥落。しかし、あきらめずに努力を重ね、初場所は序二段で優勝した。このまま復活ロードを進み、やがて炎鵬や照強と幕内で小兵対決が実現することが期待される。

 初場所は、幕内最下位の徳勝龍の優勝という、予想外の展開で幕を閉じた。今、大相撲には波乱の風が吹いている。炎鵬のような小兵が、真っ向勝負の押しを磨いて幕内優勝をさらう日も、夢ではない。(相撲ライター・十枝慶二)

AERA 2020年2月17日号