高橋大輔が、12月に行われたフィギュアスケートの全日本選手権でシングルとして最後の滑りを披露した。納得のいく演技とはいかなかったようだが、そんなところも「僕らしい」と話す。高橋のシングル最後の試合を取材したAERA 2020年1月13日号の記事を紹介する。
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シングル最後の演技で会場を沸かせたのは、33歳の高橋大輔だった。
4年ぶりの復帰となった昨季は、全日本選手権銀メダル。しかし2008年に手術を受けた右膝の古傷は、年を重ねるごとにごまかせなくなり、今季は痛みとの闘い。西日本選手権は棄権するほど状態が悪かった。
「練習での積み上げが本当にギリギリ。最後に調子は上がってきたけれど、4回転は一度も練習できませんでした」
そうは言っても、元全日本王者の血が騒ぐ。公式練習では、4回転トーループに挑戦すると、一発で見事に成功させた。
「今日は身体が動いたので、シーズン最後に記念に跳んでみたら跳べちゃいました。僕もびっくりしています」
しかし本番は、そう簡単にはいかなかった。ショートは、激しいリズム感のなか全身を使った演技の「ザ・フェニックス」。
「ダンサブルなナンバーなのに身体が動ききれませんでした。最初のジャンプが詰まってしまって急に緊張して。演技でカバーするしかないと思って動いたら、足にきてしまいました。あと10年若かったらもうちょっとできたかも」
ショートは14位発進だった。
フリーは、1本目のトリプルアクセルをなんとか片足で降りて意地をみせる。最後のコレオシークエンスは、残された力と魂を絞り出すような滑りだった。
「演技を終えて『ごめんなさい』が最初に浮かびました。こんな形で終わってしまい、自分自身に対しても、いろいろな人たちに対してもです」
すると、その気持ちを吹き飛ばすほどの大歓声がわき起こる。見上げると、会場の360度で応援バナーが揺れていた。
「『こんな高橋大輔を見たくない』という滑りだったと思うけれど、温かい空気感を目で見て肌で感じて『ああ引退なんだな』と思い、うるっとしてしまいました。心残りはもうないです」