キス&クライでは、サプライズで用意していた花束を長光歌子コーチに渡した。
「長光先生がいなければ、今の僕はない。最後に演技で返せなかったのが悔しい部分ですが、あまり格好よく決められないのが僕らしいのかも。これまでで一番よくない演技でしたけど、僕らしい終わり方かなという意味で、すっきりしました。区切りをつけることができました」
順位は12位。思うような演技ではなくとも「僕らしい」と言う。弱さを隠さずに、必死にもがき、それでも前を向き続けるのが、彼の生き方だ。改めてスケートへの思いを聞かれると、
「スケートは、自分の道を切り開き、人生を豊かにしてくれた。この競技に出合えて幸せ者です。ありきたりなコメントですけど」
格好いい言葉で、クールには締めくくらない。多くの後輩とファンにスケートの豊かさを伝えた名選手が、シングルに別れを告げた。次はアイスダンスで22年北京五輪を目指す。(ライター・野口美恵)
※AERA 2020年1月13日号
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