高校国語の新学習指導要領で「文学」が激減し、2、3年生で文学に触れずに卒業する生徒が出る可能性もあるという。選択科目を「論理国語」と「文学国語」に分ける必要があったのか。文学界も巻き込んだ論争が起きている。AERA 2020年1月13日号では新学習指導要領に揺れる高校国語の最前線を取材した。
【アンケート】なんでもかんでも国語に押しつけすぎ? 国語の役割とは…
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「ゴリゴリの理系で、国語は嫌いでした。点数は取れないし、役に立たないと思っていたんです。ところが大学に入って、周囲の友人たちと小中高で習った国語の話題で盛り上がる。もったいないことをしたと思います。夏目漱石の『こころ』の『精神的に向上心のないものは、馬鹿だ』の一文は心に刺さりました」
医学部に通う大学2年生の男性はそう記す。
中学生の子を持つ47歳の女性は、新学期に国語の教科書が配られると真っ先に読んだ。
「いまも心に残っているのは、梶井基次郎の『檸檬』です。レモンの黄色が鮮やかに目に浮かぶようでした」
国語が、戦後最大といわれる変化を前に大きく揺れている。2022年度から実施される高校国語の新学習指導要領で、「実用文」を扱う比重が増え「文学」の扱いが大幅に減少する。
AERA本誌では昨年11月、インターネットを通じて、国語教育のこうした変化や役割についてアンケートを実施。254人から回答を得た。教科書で出合った「心に残る作品」の質問には、冒頭にあるように思いあふれる回答が数多く寄せられた。
今回、とりわけ問題視されているのは、主に高校2、3年生が受ける選択科目だ。説明文や論説文など論理的、実用的な文章を扱う「論理国語」と、明治時代以降の小説、詩歌などを扱う「文学国語」が設けられた。大学入試の出題傾向に合わせると、多くの学校では「論理国語」と「古典探究」を選ぶと見られ、「文学国語」がはじかれる。そうすると、教科書の定番だった中島敦の『山月記』や漱石の『こころ』などを読まずに生徒たちは卒業することになる。アンケートでも上位を占め、10代から60代まで幅広い年齢層に支持された作品だ。
こうした事態に日本文藝家協会は声明を発表し、文芸誌も次々と特集を組んだ。昨年8月、東京都港区の日本学術会議講堂で開かれたシンポジウム「国語教育の将来──新学習指導要領を問う」では、東京大学の安藤宏教授(近現代日本文学)が声を荒らげた。
「『論理国語』と『文学国語』という分け方は大問題だ。文学に論理はないというのか」