そのことが18年、公益通報された。だが、保護者は一枚岩ではなかった。通報したのはだれか、保護者による激しい犯人捜しが起きた。
ある母親が疑われ、6時間にわたる拷問まがいの聴取を受け、途中で過呼吸を起こした。その後、うつを発症し病院通いを余儀なくされた。同時に、その息子は練習に参加させてもらえなかったり、遠征に行っても一人だけ試合に出してもらえなかったり、という嫌がらせを受け、後に退部。好きだったバレーを奪われた。
この公益通報のせいかはわからないが、教諭は19年度から隣の市の中学へ移動になった。しかし、違う学校のバレー部顧問でありながら、足しげく前任校へ通い指導を続けていた。
ここまでの強権が発動できるのも、教諭が親しくする強豪高校へ毎年のように生徒をスポーツ推薦で入学させていたからだ。そのため、親たちは推薦入学の決定権を握る教諭の機嫌をとる。自身の欲望を満たすために部活を利用しているかのようなこの教諭にマインドコントロールされる者と、それに抗う者。親たちがブラックな部活によって分断されている。
12年の12月23日に、大阪市立桜宮高校のバスケットボール部員が顧問の男性教諭からの体罰が原因で自殺した。この問題は教育・スポーツ現場の暴力を根絶しようという動きのきっかけになった。
だが今はまだ過渡期のため、親たちの価値観が二つに分断されるのかもしれない。19年11月には、大分県の少女バレークラブで、監督の暴力を隠蔽しようとした一部の親が口止め誓約書を配る問題も発覚した。
冒頭のバレー部で、息子が1年生の母親は、上級生の親から再三言われた。
「うちの子どうですか?って、親のほうから先生にもっと寄っていかなきゃ。そうすれば、子どもが可愛がってもらえるよ」
親が顧問にすり寄らなくては試合には出られない。そう解釈した。
「そんなものかと思い、頑張って先生(元顧問)に飲み物を買って持っていったりしていた。おしぼりもいるかもと気を使っていました。でも、夜中まで先生と飲み歩くことなどを疑問に感じ始めたときに(冒頭の)わいせつ行為の話を聞いた。早く目が覚めてよかった」