近年舞台での活躍がめざましく、さまざまな役柄に挑戦している森田剛さん。仕事で多くの刺激を受けるからこそ、小さな幸せの大切さがわかるという。2019年12月30日-2020年1月6日合併号に掲載された記事で、森田さんの舞台にかける想いを聞いた。
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煌(きら)びやかな生活から闇へ堕ちていく男を描く舞台「FORTUNE(フォーチュン)」。英国の演劇の劇作家サイモン・スティーヴンスが、「ファウスト」にまつわる世界観を、現代のロンドンに置き換えた作品だ。森田剛さん(40)は手に入らない愛に苦しみ、悪魔と契約を交わしてしまう主人公を演じる。
──最初に台本を読んだとき、どう感じましたか。
この作品では自分の魂と引き換えに悪魔と契約を交わしますが、命と引き換えとはいえ、何もかも手に入ってしまう状況に、ものすごい怖さを感じました。現実世界にもいると思うんです。一見、何もかも手にしたように見える成功者なのに、心は満たされてない。だから「なんでそうなっちゃうの?」という感じでガタガタ崩れていってしまう人が。「フォーチュン」では愛を手に入れますが、それも本当は、手に入れるまでの過程や道のりが大事だと思うんです。
──では、何でも手に入るとしても、森田さんは悪魔との契約は考えないでしょうか?
まったく考えないです。些細な幸せがいいんです。そんなに刺激的なことは必要ない。それに僕の場合、自分を自由に解放できる舞台という場所もある。それは幸せなことです。
──サイモンさんの戯曲に挑むのは「夜中に犬に起こった奇妙な事件」(2014年)に続いて2度目ですが、作品の魅力とは?
複雑な人間関係が、とても繊細に描かれているところです。客観的に見たら何不自由ない男なのに、男の中では「愛されたい」「満たされない」という葛藤が渦巻いている。それは僕にもわかる部分があって、すごく心を動かされました。そして彼が堕ちていく様も……。嫌悪感を抱く人もいるかもしれませんが、魅力的に感じたんですよね。そう感じたってことは、そこにきっと何かある。
前作の舞台稽古中にも、パッと腑に落ちた瞬間があったので、自分を信じて、早くその状態になるのを待ってます。もちろん、ただ待っていても降りてこないから、そこは努力していかなきゃと思っています。