後楽園ホールのリングと客席の距離は、俺にとってちょうどいい距離感だった。ただ、今でこそ後楽園ホールに来るとホッとするという感じだけど、試合で後楽園ホールに向かうときは妙にイライラして、気が立っていたよ。試合前はいつもそう。だから、今イベントなんかで後楽園ホールに行くときはとても気が楽だね。

 一方で広い会場、特に東京ドームは両国国技館以上にやりづらさがあった。あまりにも間尺があきすぎていて、後楽園ホールや体育館でやるのとは反応の届き方が違うんだ。観客の声が遠いというか、極端に言うと、技を決めた後、1分30秒遅れて拍手がくるような感覚だったよ。いつもならここでバーっ沸くのに、それが来ないんだもの。まして、対戦相手は長州力と猪木さんだ。長州はゴツゴツした感じのプロレスでやりづらいし、猪木さんには指を脱臼させられて、失神させられてだもの……。

 広い会場といえば、馬場さんとアメリカに行ったときの向こうの会場の大きさにびっくりしたよ。向こうの会場は1万5000人とか2万人が入るデカさだ。試合もしたけど、汚い野次が飛んできたことが記憶に残っている。あの当時でも「リメンバー・パールハーバー!」と言ってくるやつもいたからね。

 ただ、向こうのファンの中には馬場さんが活躍していた時代を知っている人もいて「ババ!」と声援を送られていたのも印象的だ。さすが、ニューヨークでトップを取っていた人は違うよ。そのアメリカで初めて、男女混合のミックスマッチを見たときは衝撃的だった。日本では誰もそんなことをしていなかったからね。その光景が忘れられなくて、俺も日本でやってみようと思ったんだ。

 余談だけど、アメリカのリングはパパっと解体できるようになっているから、日本ほど頑丈にできていない。受け身を取るとバウンドの仕方や衝撃度が違って、日本よりもダメージが少ないんだ。ただ、ニューヨークは別。こっちはガタイが大きいレスラーが多いから、マットの下の板が分厚くて、ずいぶん痛い思いをしたよ。

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